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ちょっとした事が嬉しい
「ちょ……ちょっと!」
慌ててトイレの入口の扉を閉める。
「僕じゃなかったらどうするんですか! もう、先生も……何やってるんですか」
触れ合うだけの軽いキスだったにしても、仮にも先生と生徒だよ?
……軽率すぎる。
先生はちょっと気まずそうにしてるけど、志音はいつもと変わらない。
僕の方が恥ずかしい。
「志音、ちゃんと修学旅行楽しむんだぞ?……竜太くん、よろしくな」
先生は志音の肩をポンと軽く叩き、そそくさと出て行ってしまった。
「………… 」
「もぉ、びっくりしたよ……大胆にもほどがあるでしょ。どうしちゃったの? それにさ、僕や真司君にべたべたしてたのって、もしかして先生に焼きもち妬かせたかったとかじゃないよね?」
さっきから志音の行動が少し気になってたから思い切って聞いてみたんだ。
僕の顔をジッと見て、くすくす笑う志音。
「やだなぁ、そんなんじゃないよ。先生に言われたんだよ。一人でいないで竜太君とかとくっついとけってさ。逆ナンとか、俺なんかは特にファンとか言って煩わしいだろ? 友達同士くっついて楽しそうにしてたら周りも声かけにくいんじゃないかって……」
「……? そういうもん? 逆に目立つんじゃないの? 先生おかしなこと言うんだね」
はっきり言って意味がわからなかった。
班行動だし、一人になる事なんてないだろうに……でも情緒不安定な志音が心配だったのかな? それなら少し先生の気持ちもわかる気がした。
「でしょ? 自分で言っときながら先生の方が焼きもち妬いてるんだよ。笑っちゃうよね。さっきのキスだって先生の方から「して」って言ったんだよ。俺からじゃないし」
……志音、嬉しそう。無理してるとかそういうんじゃなくて、心の底から楽しそうなそんな表情だった。
「先生のくせしてさ……こんな時にこんな場所で、呆れるよね。でも、そんな理性もなくなっちゃうくらい求められるのって嬉しいよね……」
頬を赤らめ、恥ずかしそうに志音は僕から目をそらす。
「俺……今不安でしょうがないから、こんな風にバカみたいに愛されてるって実感できないとダメみたい。どうしようもないよね……こういう子どもっぽい事が嬉しくてしょうがないんだ」
やっぱり不安なんだ。無理しているのもなんとなくわかってるから、こうやって嬉しそうな志音を見ていたら少しだけ安心した。
「そっか。わかった。みんな待ってるし、もう行こう?」
とりあえず、志音が穏やかにいられるなら何でもいい。
志音を連れてトイレから出ると、真司君と康介が楽しそうに二人で喋っていた。
「お! やっと来た。遅かったな、うんこか?」
「……そういう下品なの俺、嫌い」
志音の冷たい視線に真司君が慌てて謝った。
「あれ? 康介も何か買ったの?」
康介が僕がさっき買ったお土産屋と同じ袋を持ってたから、何となしに聞いたのにすぐに顔を赤くするから笑ってしまった。
「べ……別に、去年変なシーサーのキーホルダー貰ったからお返しにって思っただけだから! ちょっと目にとまったから買ってみただけだから……」
お土産くらいで何もそんなに否定しなくてもいいのに。照れ隠しが酷い。
「修斗さん喜んでくれるといいね」
「お?……竜の真似してお、お揃いにしたんじゃねえからな!」
「はいはい。わかったから」
康介ってやっぱり面白い。
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