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わからない

「……出ねえの?」 テーブルの上の携帯が震え、修斗は慌てて手に取ったけどすぐに出ようとしなかった。チラッと見えた画面には康介の名前。 「………… 」 手に握られた携帯は、まだバイブ音が漏れている。 「早く出てやれよ」 「………… 」 そうこうしてる間に、修斗の携帯は静かになった。 「なんなの? お前、ほんとどうした?」 「いや……別に」 別に……じゃねぇだろが。 なんか嫌な気分になる。 「今日は一日中碧ちゃんとデート?」 揶揄うようにわざと軽く聞くと「あぁ……」と浮かない返事。 「車でドライブ。買い物付き合わされて……碧ちゃんの家に呼ばれた」 「………… 」 ……なんて顔してんだよ。 そんな顔すんならデートなんてしなきゃよかったのに。 何を思ってるのか、修斗はそのまま黙ってしまった。 「ヤッたのか?」 単刀直入にそう聞くと、俺の言葉に修斗が勢いよく顔を上げて睨みつけてくる。 「ヤるわけねーだろ! ……いや、そんな雰囲気にされたけど……やらなかった。出来ねえよ今更……」 シュンと項垂れる修斗だけど、やっぱり俺にはこいつの言動が理解できない。 修斗は男女問わず友達が多い。 あんな容姿だし話題も豊富でノリがいい。おまけに気遣いもできるいい奴だから、そりゃモテるのは当たり前なわけで…… 男だろうが女だろうが、誘われればデートもするし自分も気に入れば付き合ったりもしていた。交際が長続きしてるのはあんま見た事ないけどな。 でも俺に言った事がある。 「好きだと思って付き合っても何か違う気がするんだよな」 それって本気じゃねえからじゃん? 当時はそう思ったけど、修斗にはとくに言わなかった。 康介の前に、男と付き合ってたのも俺は知っていた。 猛アプローチされて付き合ってたみたいだけど、そいつと別れたって言ってた時の修斗はいつもとちょっと違ってて……なんかわからなかったけど無性に腹が立って、俺はその相手をぶん殴った。勿論修斗はそんな事知らねえけど、でもきっとあいつに酷く傷つけられたんだってそう思ったんだ。 俺は修斗を見ながら、そんな昔の事を思い返していた。 「何してんの? 誰?」 おもむろにメールを打ち始めた修斗に聞く。 「……碧ちゃんと次の約束」 は? 何だそれ。 イラつく…… 「お前、何がしたいんだ?」 思わず聞いた俺の問いかけに「別に……」と、さっきと同じお約束の返事が返ってきた。 それからは特に会話もなく、お互い食い終わって店を出る。何かを話すわけでもなく、俺たちは黙ったまま歩き続けた。 幼馴染のこいつとは、会話がなくても居心地が悪くなるなんて事はない。言いたい事、思ってる事はだいたい察しがつく。でも今俺の横を黙って歩く修斗はどうしたいのか、どうしてほしいのか、よくわからなかった。 「どうする? 俺ん家来る?」 一人にしないほうがいいのかな……なんて思ったりもしてそう聞いてみるも、あっさりと断られてしまった。 「いや、これからまた遊び行くしいいや。ありがとな周」 つまらなそうな作り笑顔を俺に見せ、修斗は行ってしまった。 「明日はちゃんと学校来いよな!」 小さくなる修斗の後ろ姿に俺は叫ぶ。パッと片手を上げ、振り返りながら手を振る修斗はやっぱり寂しげで俺はイライラした。

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