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嬉しい大参事
地元の駅に到着し、僕は途中まで康介と一緒に帰る。
土産屋の時から心なしか元気ないように見えたけど、普段通り他愛ない話をしながら僕らは並んで歩いた。
「僕、今日はこっち……周さんの家に寄って帰るから。またね」
「……おう、また」
いつもならすぐ近所の康介と僕の家まで一緒だけど、今日は周さんの家へ直接行くから康介とはこの道で別れ、一人夜道を進む。
歩き慣れた周さんのアパートまでの道のり。
たった二日会ってなかっただけなのに、早く会いたくて自然と早足になってしまった。
あの小さな公園を過ぎて角を曲がれば周さんのアパートだ。
あと少し……
そう思ったらもう僕は駆け出していた。
周さんの部屋の前で呼び鈴を押す。
周さんが作ってる夕ご飯、外まで漏れてるいい匂いでもう何だかわかっちゃった。
「竜太お帰り」
「ただいま、周さん」
エプロン姿の周さんが、笑顔で迎えてくれた。
その手にはおたま。豪快に床にポタポタとカレーが滴っている。
「周さん! 垂れてる垂れてる!」
慌てて僕は荷物を下に置き、周さんの手からおたまを奪いキッチンへ歩いた。
玄関から入るとすぐに見えるキッチンの惨状に一瞬言葉を失ったけど、周さんが奮闘してくれた跡だと理解し嬉しくて顔が緩む。
「もう……どうしたらこんなになっちゃうんですか?」
それにしたって本当、びっくりするほどカレーが床に飛び散っている。よく見ると周さんのエプロンも凄いことになっていた。
「だってよ、焦げ付かないように混ぜてたら溢れんだもん。ちょっと散らかったけどよ、でも味は美味いと思うぜ。俺だってやれば出来るんだ」
多分手に付いたカレーに気付かずに顔を触ったのかな? ほっぺや髪の毛にまでカレーをつけた周さんが得意げに僕を見るから可愛くてたまらなかった。
「ふふ、ありがとうございます。早く食べたいからまずはここ、僕が片付けておきますので周さんはシャワー行ってください」
あまりにも周さんがカレーまみれだったからそう言ったんだけどな。
「竜太のエッチ。もうシャワー?」
「違いますっ! 周さんがカレーいっぱいつけてるから美味しそうなんですよ。早くお風呂場行かないと……ほら、食べちゃいますよ?」
そう冗談を言いながら、カレーのついた周さんの手を取りその手のカレーをペロッと舐めとった。
「……!」
びっくりして顔を赤くした周さんが「竜太のエッチ……」と呟きながらシャワーを浴びにお風呂場へ行った。
周さんがお風呂へ行ってる間に、僕は床の掃除をして食卓の支度をする。キッチンの惨状に目がいってたけど、カレー自体はちゃんと出来ていて美味しそう。カレー以外にも、ちゃんとレタスをちぎってサラダも作ってあった。山盛りのレタスの上にプチトマトがてんこ盛り……
もう僕は面白いやら嬉しいやら、にやにや笑いを堪えるのが大変だった。
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