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ピアス

今日は週に二度の家庭教師の日。 僕は早目に部活を切り上げ自宅へ帰った── 周さんはバイトに加え、自動車教習所にも通い始めてしまったから放課後会える時間がすごく減ってしまってちょっと寂しい。それに段々と「卒業」が近づいてくる感じがして余計に寂しさが膨らんでくる。 学校生活ってあっという間だ…… 高校生になってからは特にそう感じる。 文化祭や体育祭、修学旅行などの大きな行事がひとつ、またひとつと終わる度にそういった思いは膨らんでくる。 周さんが卒業してしまった後のことを考えると寂しさと不安が膨らんでくるんだ。 それでも周さんは大丈夫だと言ってくれる。 生活は変わるけど、僕らの中身が変わることは無いから…… 家に帰り、少し部屋を片付ける。 片付け始めたタイミングで家庭教師の碧先生が到着した。 「じゃ、早速始めよっか? 前回の続きね」 先生が用意してくれた問題を解く。 解きながら分からないところなんかをちょくちょく聞くんだけど、その度にわかりやすく解説してくれるから、やっぱり凄いな……って思う。 ひと通り問題を解き解説が終わると、少し休憩をしてお喋りをするのがいつものパターン。 女の人も僕はちょっと苦手だけど、この人は当たりが柔らかな感じで話題も豊富だからとっても話しやすかった。特にスイーツの話しで盛り上がることが多くて、まるで女友達とお喋してるみたいだと言われる始末…… 「男だって甘いもの好きな人いっぱいいますよ」 そう言うと、なんだか嬉しそうに先生はうんうんと頷く。 「わかる! それね! 私の知り合いも甘いもの好きなのよ。特にチョコレートね、これには昔っから目が無いみたい。男の子で甘いもの好きなのって可愛いわよね」 さっきよりかなりテンションが上がった様子の先生に少し戸惑いながら、僕はあることに気がついた…… 「あれ? それ……どうしたんですか? ピアス」 いつも女らしい清楚な雰囲気の碧先生のイメージとは全く違う、男っぽいピアスが片耳だけに付いている。 今日だって可愛らしいワンピースを着た先生だから、その耳に光るピアスはちょっと不自然にも見えた。 それにそのピアスには見覚えがある。 「あ、気づいた? これちょっと私っぽくないよね……実はね、前に好きだった人から貰ったの」 照れくさそうに耳を触り、僕の反応を見てそわそわする先生だけど、僕はそのピアスをどこで見たのか必死に記憶を辿っていた。 ……どこで見たのか気になってしょうがない。 「彼ね、久しぶりに再会してたまに会って遊ぶようになったんだ。実はまだ好きだったから嬉しくって。部屋に置いてあったのを見てね、片方だけしか使ってないって聞いて、無理矢理貰っちゃった」 「へぇ、そうなんですか。碧先生って意外と積極的なんですね」 僕がそう言うと、先生は真っ赤になって笑った。 「………… 」 言いながら僕は思い出してしまった。 碧先生が愛おしそうに耳に手をやるその指先に触れる黒い石のピアス。 きっと同じだ。 いつも見ている康介の耳に付いているピアスと同じだった。 康介が誕生日に修斗さんから貰ったと照れくさそうに話してくれたそのピアス。 修斗さんとお揃いだと言って…… 幸せそうな顔の康介が頭に浮かんだ。

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