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追いかける
放課後、僕は部活には出ず帰宅する準備をする。下駄箱につくと、門を出て行く康介の姿が見えた。
朝はぎこちなかったし結局昼休みも一緒に過ごせなかったので、今度はちゃんと一緒に帰ろうと僕は康介を追いかけた。走って追いかけるも康介は歩くのが早く、僕はすぐ疲れちゃってなかなか距離が縮まらない。
なんだっていつもこうなんだろう。
遠くに周さんを見かけたって追いつけたためしがない。
ほんと嫌になる。
心の中で「待って!」と叫びながら康介を追う。でもすぐに信号待ちをしている康介に追いつけそうなのがわかり、ひと安心した。
赤信号で立ち止まる康介の後ろ姿に声を掛けようと口を開く。その瞬間、突然康介が走り出し横断歩道を渡り出してしまった。
え……?
信号、まだ赤だよ?
「ちょっと?! 待って! 康介!!」
車のクラクションが鳴り響き、辺りは騒然となる。ギリギリのところで車にぶつかる事なく、迫る車のボンネットに手を置きながら康介はそれでも周りを気にする素振りも見せずに前へと走った。
クラクションと「危ねえな!」「馬鹿野郎!」という罵声が響く。僕はびっくりして足が止まり、どうしたらいいのかもわからずただ康介の後ろ姿を目で追っていた。
周りが騒つく中、程なくして信号が青に変わりすぐに何事もなかったかのように歩行者が渡り始める。
まだ心臓がドキドキしてる……
ビックリした。
胸に手を置きひと呼吸してから信号の向こうに改めて視線をやると、そこに立っていたのは康介と私服姿の修斗さん。そして修斗さんと腕を組んで寄り添うように立っている碧先生の姿があった。
「え、碧先生?」
信号が変わる前に渡らないとと思い、慌てて僕も走り出す。
何やら揉めているようにも見え、気持ちが焦った。
僕が横断歩道を渡りきる前に、康介は強引に修斗さんの腕を掴み行ってしまった。しょうがないので、ぽつんとその場に残された碧先生の元へ僕は駆けつけ声をかけた。
碧先生は今にも泣きそうな顔で僕を見る。
「竜太君のお友達? 何やってんだ! って感じで凄く怒ってて……怖くて……無理矢理引きずるようにして修斗君連れて行っちゃったけど、大丈夫かな? 修斗君、ケンカとか……しないよね? 大丈夫だよね?」
縋るように僕を見つめ不安そうな顔を見せる。僕の腕を掴む碧先生の手が僅かに震えていた。
「大丈夫です。康介は……あ、今の康介って言うんだけど、別に乱暴なわけじゃないし優しい奴なんです。何でもないんです。心配ないです……驚かせてしまってごめんなさい」
なんて言っていいかわからず、とりあえず怖がらせてしまった事を僕の方から謝った。
腕を掴まれたまま碧先生にジッと見つめられ、気まずい沈黙……
「なんで竜太君が泣きそうな顔になってるの?」
不思議そうな顔の碧先生にそう言われ、僕は顔が赤くなった。
「な……泣きそうになんかなってません!」
慌てて袖で目元を擦り、僕は碧先生から離れた。
「でも、本当ごめんなさい。どうします? 僕、送りましょうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。一人で帰るから。また明日ね」
僕の腕から手を離すと、ひらひらと手を振り碧先生は笑顔を見せながら行ってしまった。
そっか。明日も家庭教師の日だ。
僕も複雑な気持ちのまま家に帰った。
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