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別れたい/修斗の気持ち
(お前、何がしたいんだ?)
周に言われた。
そんなの俺だってわかんねえよ。
康介と別れたい──
前に康介が教室で竜太君と楽しそうに話しているのを聞いてしまった。
竜太君のところに来ている家庭教師の話……ハタチの女子大生と聞いて興奮したように話す康介。
「マジかー! そんなに若いの? おっさんとかじゃねえんだ! ハタチってことは現役女子大生? ……しかも綺麗なんだ。ふぅ〜ん、ヘェ〜、いいなぁ」
廊下にまで聞こえるくらいの声で喋ってる。
……こんなのなんて事ない男同士の会話だけど、俺にとっては考えさせられる会話だった。
しきりに竜太君に可愛いだのキレイだの聞いて、エロいとまで言い出す康介に竜太君は不思議そうに聞く。
「康介は僕が羨ましいの? 家庭教師が綺麗な女の先生だとエロいイメージが沸くの?」
きっと竜太君は純粋に不思議に思ったんだろうな。嫌味とか揶揄いのようなものはまるで感じなかった。
落ち着いた感じの竜太君とは対照的に慌てふためく康介を見て、俺はそのまま康介に声をかけず一人で帰った。
康介は俺と付き合う前は別に男が好きとかじゃなかったはずだ。女の子と付き合ってたとも言うし。
それなのに俺の事を好きになってくれた。
もちろん俺も康介の事が大好き。
でもそうなんだよ……もうじき俺は卒業する。
就職する俺とはきっと時間が合わなくなって、じきにすれ違うんだ。康介は俺に友達が多くて心配だって言うけど、康介だって同じ。
知ってるよ。
バイトの仲間と飯食いに行ったりカラオケしに行ったりしてるだろ?
別に焼きもちとかじゃない。
俺にだって康介にだって、お互いそれぞれの付き合いってのがあるんだ。
そして離れてみて気がつくんだよ……
男と付き合ってるのがおかしい事だって。
男子校で男ばかりでつまらない毎日が、男同士でも恋愛ごっこでもしてれば楽しいしドキドキするだろ? その相手がいなくなれば、自然とまた目は女の子に向かうんだ。
……で、気がつくと自然消滅してるんだ。もしくは別れようって告げられる。
時間の問題。
俺はね、康介と付き合う前から気づいてた。俺は女の子とも付き合ってたけど、きっと男の方がいい。そういう人間なんだってずっと前から気づいてたんだ。
康介とは違う。
康介と体の関係を持つのが本当に怖かった。
俺を受け入れてくれたからよかったけど……もしかしたら流されてそうしてしまっただけなのかもしれない。
康介は優しいから、もう既に「やっぱり違う」って思ってるのに俺に合わせて付き合ってくれてるのかもしれない。
「やっぱり無理です」
そう言われるのが凄く怖い。
卒業して別れを告げられるくらいなら、俺から離れる方がいい。
卒業が近づけば近づくほど、俺はそんな事ばかり考えるようになっていた。
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