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これでいい……
碧ちゃんと何度かデートをした──
碧ちゃんの授業の合間にランチをしたり、買い物に付き合わされたり、ドライブをしたり……
ドライブをした日はちょうど康介が修学旅行でいなかった。
修学旅行の前までは康介から何度か電話があったけど、俺は出る気にはなれず無視をしていた。 メールは頻繁に入っていたけど、段々と言葉数も少なくなり、いくら鈍感な康介とはいえおかしいって思ってる様子が伝わってきた。
……これでいいんだ。
「修斗君は相変わらずモテモテだね。私の事は気にしないで電話くらい出てもいいのに」
俺が携帯ばかり眺めているもんだから、碧ちゃんから寂しそうに言われてしまった。
「いや、碧ちゃんに気を使って出ないわけじゃないよ。碧ちゃんとの時間を大事にしたいから。電源切っとくから……ごめんね、嫌だったよね?」
俺は運転している碧ちゃんにわかるように携帯をかざしながら電源を切る。
全く……
調子のいいこと言ってるな俺は。
自分自身に呆れていると、碧ちゃんがハンドルから片手を外し、俺の手を握ってきた。
「ありがとう……嬉しい」
俺もその手を握り返し、ひと撫でしてから手を離す。
「運転中は危ないよ……」
俺がその気にさせてるくせに、あまりに積極的に来られるとちょっと引く。
なんて俺は自分勝手なんだろう。
このあいだの店で食事をする。
割り勘で会計を済ませ「うちでコーヒーでも」と言う碧ちゃんについて行き部屋へ上がった。
女の子らしい可愛い部屋。
いつも散らかってる康介の部屋とは大違いだ。
「適当に座ってて……コーヒーとお紅茶あるけどどっちがいい?」
俺はローテーブルの前のクッションを抱えて胡座をかく。
キッチンで忙しそうに動き回る彼女に向かって「コーヒー」と呟き、そっと手元で携帯の電源を入れた。
メッセージの受信は二件だけ……
段々と康介からの着信やメールが減っていく。わかりきったことなのに、胸がチクんと痛んだ。
「ひとり暮らしだと中々綺麗に出来なくて。散らかってて恥ずかしいな」
肩を竦め恥ずかしそうな表情を見せるけど、どう見ても俺を呼ぶために綺麗に片してある整理整頓された部屋を眺めて俺は笑う。
「そんな事ないよ。女の子らしくて綺麗な部屋だね」
花柄のトレーにコーヒーを二つのせ、俺の隣にちょこんと座る碧ちゃんからコーヒーを受け取りひと口頂く。
……距離が近い。
向かいに座ればいいものを、わざわざ俺の隣に寄り添うようにペタンと座る。
思わせぶりな言動をしてるのは俺。
碧ちゃんに何を期待されてるかも、この後どうなるのかも、手に取るように想像がついた。
コーヒーに手をつけずに碧ちゃんは俺にもたれる。
俯いてるから表情はわからないけど、何となく肩を抱いてやると少しだけビクッとなったのが伝わってきた。
「………… 」
康介よりずっと華奢で細いその肩を抱きながら、何をやってるんだろうな……と虚しさがこみ上げてくる。
泣きそうになる。
そんな俺の気持ちなど知る由もない碧ちゃんは、俺の方へ顔を上げ瞳を閉じた。
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