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打ち明けられない
康介と付き合う前なら、喜んでキスもしたしセックスだって軽い気持ちで出来たはず……でも俺は目の前でキスを待つ碧ちゃんを見ても何も感じなかった。
あったのは虚しさと悲しさだけ。
グッと抱いていた肩を引き寄せ、俺は碧ちゃんの耳元近くにチュッと軽くキスをした。
「コーヒーご馳走さま。ごめんね、これから周と会う約束してるんだよ。そろそろ行くわ……今度は俺の部屋でも」
周と約束なんかしてなかったけど、この場から逃れたくて咄嗟にそう言った。ぽかんとする碧ちゃんから目を逸らし、俺はそそくさと立ち上がる。でも碧ちゃんは周のことを思い出したのか、すぐにパッと明るい顔になり「周君によろしく」と手を振った。
部屋を出て一人になるとすぐに周にメッセージを入れる。幸いにもすぐに電話がかかってきた。あまりにもすぐだったので気持ちが焦り、俺はおかしなテンションで電話に出てしまった。
……別にやましい事をしてるわけじゃないのに。
焦るあまり、飯の誘いをしてしまって後悔する。
腹なんてすいてない。
周も竜太君が修学旅行でいないから一人で飯を食うつもりでいたという。
なんだか申し訳ない気持ちになった。
周とはガキの頃からずっと一緒で沢山助けられてきた。
だから何でも話したし相談もする。今回の事だって、聞いてもらいたかったのかもしれない。でも周は男同士だろうが、ゲイだろうがそうじゃなかろうが、何も気にする事なく竜太君の事を信じて疑わない。竜太君だって同じだ。お互いがお互いを信頼し合って共にある……
普段からそんな姿を見せつけられていて、俺のこんな悩みなんか打ち明けられるわけがなかった。
周に俺の言動が理解できるはずがない。
周は俺の様子が変なのに気がついてる。
俺の事を気にかけ、聞き出そうと言葉を選んで話してくれているのがわかったけど、やっぱり言い出す事はできなかった。
俺が康介の事を信じさえすればいいだけの話……
それができないからこうなってるわけで、その事を言われるのが辛かったから俺は黙った。ただ、女臭いと指摘されたから碧ちゃんと会ってる事は打ち明けた。
「ヤッたのか?」と言う周に思わずカチンときてしまう。
「ヤるわけねーだろ!……いや、そんな雰囲気にされたけど……やらなかった。出来ねえよ今更……」
これは本音。
キスすら俺は躊躇ってしまった。
康介の事を好きになって受け入れてもらえて、何度も抱かれた。
好きな奴と肌を重ねる事がこんなにも気持ちがよくて心地いい事を、俺は康介と付き合う事で初めて知ったんだ。
怪訝な顔で俺を見る周の視線に耐えられず、携帯の画面に目を落とす。
早速碧ちゃんからメールが来ていた。
『今度は修斗君のお部屋に行きたいな。いつなら大丈夫?』
さっき俺が、今度は俺の部屋で……なんて言ったもんだから。
しょうがないから都合のいい日をメールで伝えると、すぐに可愛い絵文字付きの文章で返信が来た。
誰? と聞く周に碧ちゃんと次の約束と伝えると、あからさまに嫌な顔をされた。
「お前、何がしたいんだ?」
ほんとそれ、俺も思うよ……
「別に……」
逃げるように俺はそう返事をした。
俺の家に来るかと心配そうに聞いてくれる周だけど、俺は友達と会うと嘘をつき断り、一人で家に帰った。
修学旅行最終日、帰ってきた康介からメッセージが来た。
学校でお土産を渡したいという内容。
用件だけの短いメール……
いつものように読むだけ読んで、返信はしなかった。
学校でも避け続けているのも限度があるし、もう何日も康介の声を聞いていない。
明日学校に行ったら康介と会おう。
久しぶりに康介と会う。
そのうちきっと、友達に戻れるはず……
少しずつでも距離を置き、また付き合う以前のような友達に戻れたらいい。
俺はそう思っていた──
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