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お揃いのピアス

それからすぐに俺はまた碧ちゃんとデートをした。 今度は映画。 碧ちゃんが用意してくれていた映画のチケットは、今流行りの若手俳優が主演するラブストーリーだった。 ……こんな映画、俺は興味ない。 そういえば康介と初めてデートした時も映画を観た。俺が強引に誘って連れ回して……康介も観たかったって言っていたアクション映画。でも観ながら寝ちゃってんのが可笑しかった。 楽しかった思い出が次から次へと頭に浮かぶ。 カップルシートに碧ちゃんと二人で座り、映画が始まってからもちっとも映画の内容が頭に入って来ずに、ただただ俺は康介との思い出に耽っていた。 途中何度か碧ちゃんに話しかけられ、適当に相槌を打つ。そして気がついたら眠ってしまっていた。 映画が終わり、並んで歩く帰り道。 「もう、疲れてた? ごめんね。まさか寝ちゃうとは思わなかった。最後凄い感動的だったんだよ。修斗君にも見せたかったのに……」 苦笑いされ、俺もしょうがなく笑った。 「ごめんね。この後どうする? 送ろうか?」 段々面倒になってしまい、一人になりたい気分だった。でも俺の言葉に碧ちゃんは首を振り腕に抱きついた。 「今日は修斗君の家に行くんでしょ?」 ……そうだよね。やっぱり覚えてるよね、約束。 気が乗らなくて誤魔化そうとしたけどダメだった。この時間なら両親もいないし姉貴も仕事に出ているはず。 いいんだか悪いんだか…… そうこうしてるうちマンションの前。 「一度だけ私来たことあるよね。何年ぶりかな? お家の人はいらっしゃるのかしら」 エレベーターのボタンを押しながら誰もいないと伝えると「そっか……」と嬉しそうに笑った。 「何か飲む?」 「お構いなく」 部屋に入ると碧ちゃんは俺の方を見ずにきょろきょろしている。俺は一旦部屋を出て紅茶を用意してからまた戻った。 何の躊躇いもなく俺のベッドへ腰掛ける碧ちゃんを横目に、俺はローテーブルの前へと座る。 「修斗君はお部屋綺麗に片付けてるんだね。男の人って散らかってるイメージあるからこういうのポイント高いよ」 そんなポイント俺はいらない。 「ねぇ……これ! 可愛い!」 机の上に置きっぱなしの俺のピアス。唐突にはしゃぎながら碧ちゃんは机の上のピアスを指差した。 可愛いかな?……どちらかといえば男臭いゴツいデザインだ。それでも「可愛い」と言いながら碧ちゃんはキラキラした目でピアスを眺めてる。 ああそうか……これって「ちょうだい」ってやつだ。 女の子って何でも欲しがるんだよな。欲しいならはっきりそう言えばいいのに、わざとそうやって言うんだ。「買ってあげようか?」とか「ならあげるよ」って言葉を待っている。 「……欲しい?」 俺が聞くとパアッと笑顔を向けてうんうんと頷く。 「でもそれ俺気に入ってるんだよな……ほら、今も着けてるし」 髪を耳にかけ、よく見えるようにピアスを着けた耳を碧ちゃんに向けた。 「片方しか着けないの?」 そう聞かれ頷くと「じゃあお揃いだね」と言って机からピアスを取った。 康介に初めてあげた誕生日プレゼント。 わざと俺のと同じのを買って渡したんだ……お揃いだって気がついてくれて、そして喜んでくれるといいなって期待を込めて。 康介はすぐに気がついてくれて喜んでくれたっけ。その時はドキドキして舞い上がるほど嬉しかったっけ…… 「ねえ、修斗君……聞いてる? 貰ってもいい?」 「………… 」 まぁいっか。たかだかピアスだし、碧ちゃんはもう貰う気満々だし、しょうがないかと思い俺は頷くと、不意に碧ちゃんが叫ぶから驚いて飛び上がってしまった。今日の碧ちゃんのテンション、ちょっとうるさい。 「な……なに?」 「ねえそれ! 修斗君の学校の制服? 私の家庭教師の生徒さんと同じ高校だったのね! そっかぁ、修斗君って男子高なんだぁ」 ここの制服カッコいいよね、なんて言いながら、その教えてる生徒というのは俺より一個下の二年生で、スイーツ好きな可愛い子だと教えてくれた。 ……それって竜太君じゃん。 ピアスあげる前に言ってくれればよかったのに。竜太君、俺のピアスに気付くかな。 「修斗君。ねえってば……どうかな?」 早速俺のピアスを片耳に着けて俺に見せる。 「……うん、いいんじゃね?」 「ちょっと。なんか気のない返事! ねぇ……こっち来てくれないの?」 碧ちゃんがまたベッドに腰掛けて俺を見つめる。 「………… 」 俺は碧ちゃんの隣に腰掛け、腰に手を回しキスをした。 康介とは違う、甘い香水の匂いが鼻をくすぐる柔らかいキス…… 啄むような軽いキスを何度か続けた。 「ん……修斗君」 碧ちゃんからまたキスをされ、軽く舌を絡めてくるからそれに答える。 ……何だろう。やっぱり何も感じない。 それでも俺は先に進もうと碧ちゃんを押し倒そうとしたら、肩を掴まれ拒絶されてしまった。 「……なに? 嫌なの?」 「別に……修斗君やっぱり変わったね。ちょっと私、複雑」 少し乱れた服を整えながら不機嫌そうにそう言って碧ちゃんは部屋から出て行ってしまった。 帰ってしまった碧ちゃんを追いかけるわけでもなく、なぜ出て行ってしまったのかも考える気にもならず、とりあえずホッとした気持ちで俺はそのまま眠りについた。

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