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掴む手
結局何で碧ちゃんが不機嫌になったのかわからないまま、相変わらず今日もデートをしている。
俺はあの時追いかけなかったし、てっきりこれっきりかと思ったのに……何事もなかったかのように振る舞う碧ちゃんがよくわからなかった。
ケーキ屋でお茶をして、そのままぶらぶらと歩く。
やり直そうとか付き合おうとか、そんな事はまだ何も言ってないし言われてもいないけど、並んで歩く時は恋人同士みたいに碧ちゃんは腕を組んで歩く。
この辺りは康介の下校コースだ。
ちょっと場所が嫌だな、なんて思っていたら急に車のクラクションが鳴り響き周りが騒ついた。びっくりして騒動の方を見ると、すごい剣幕で道を横切りこちらに走ってくる康介の姿が目に飛び込んでくる。
「え……康介?」
てか危ねえ! 信号赤だろ!
康介が車に轢かれかけてる姿を見てヒヤッとする。でもあんな怖い顔をした康介、見たことがない。
怒っているのは明らかだった。
俺は康介から目が離せずにその場に止まる。
「何だろう……あの子、危ないね。え? こっち来るよ」
俺と腕を組んでる碧ちゃんが少し怯えて更にギュッと抱きついてきた。康介は俺から目をそらすことなく真っ直ぐにこちらに向かって走ってきて、目の前まで来ると乱暴に俺の腕を取った。
「修斗さん!」
康介の剣幕に驚きで言葉が出ない。碧ちゃんが心配して俺の腕を引っ張った。
「修斗君、行こうよ……」
コソッと碧ちゃんが俺に耳打ちするけど、すかさず康介が碧ちゃんの手を払う。
「すみません! ちょっとこの人と話があるので!」
そう怒鳴ったかと思ったらグイッと俺の腕を引っ張るから、不意打ちに俺はよろけて引きずられてしまった。
「ちょっと! 康介、痛いって! 離せ!」
「はぁ? 何でだよ! 離さねーよ! 全く何やってんすか! 行きますよ!」
ぐいぐいと俺の腕を引っ張り真っ赤な顔で怒ってる……
そんな怒ることねえだろ。
「俺……デート中なんだけど」
俺がそう言うと、ばっとこちらを振り返り更に強く腕を引かれた。
「何言ってんの? 何がデートだよ! その人にも俺にも失礼だろうが! ざけんな! 早く来い!」
「………… 」
俺は抵抗するのをやめて康介について行った。
掴まれてる腕がめちゃくちゃ痛い。痛いけど、やっぱりちょっと嬉しかった。
「外じゃアレだから……俺んち、あ! いや、ここからなら修斗さんちの方が近いか……いいですか? 行きますよ!」
腕を掴んだままぐんぐんと進む。
痛いし歩きにくいから、何度もその手を振りほどこうとしたけど、康介は全く離してくれなかった。
「なあ、逃げねえからさ……手、離してよ。康介……」
「………… 」
「康介?」
「嫌です」
康介は掴んでいた腕を一瞬だけ離し、ギュッと手を繋いできた。
汗ばんで熱い手……
今まで何度も触れていた康介の手。
優しかった俺の大好きな手。
「………… 」
何かがこみ上げてくるのを必死に堪え、康介に手を引かれながら二人で俺の部屋に帰った。
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