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戻れない

「ねえ、何やってんすか? 俺のこと避けて避けてシカトして……なんなんすか、あの女の人」 部屋に入るなり康介は怖い顔をして俺の胸ぐらを掴む。 「私服だし……また学校休んだんですか? デートってどういう事? まさか付き合ってるとかじゃねえよな?……俺ら別れてないよね?」 「………… 」 はっきりと康介に言ったわけじゃない。 碧ちゃんとも付き合うとは言ってない。 「なんとか言えよ! 何黙ってんだよ!」 こんなに感情的になっている康介、初めて見たかも……なんて、少し冷静になってる自分がいた。それでもこれからはっきりと口に出さなくてはと思ったら緊張した。 「……康介、ホッとしてるだろ? これでいいんだよ。ほら、俺もうじき卒業だしさ、今のうちにすっきりさせとかねえと……元々康介は女の子が好きだったんだしさ。そろそろ男も飽きてきただろ? 俺はもういいからさ……」 ドキドキして心臓が飛び出しそうになりながら、何とか俺は言葉を紡ぐ。 ぽかんと口を開けた康介の顔……康介はしばらく考えてる様子だったけど、みるみる眉間に皺が寄った。 「さっきの子ね、竜太君の家庭教師。あ、ナンパしたとかじゃねえよ? たまたま偶然、俺の元カノだったってわけ。康介もああいうタイプ好きなんだろ? 家庭教師って響き……エロいよな。彼女とまだよりを戻したわけじゃないしさ、よかったら紹介しようか?」 自分で言ってて悲しくなる…… 竜太君に楽しそうに家庭教師の事を聞いてる康介の姿を思い出し、思わずそんな事を口走ってしまった。 ……?! 不意にベッドに突き飛ばされた。 慌てて康介を見ると、その場から動かずに真っ赤な顔をして俺の事を睨みつけていた。 「何わけわかんねえ事言ってんだよ、あの人竜の家庭教師なの?……で? だから何? 何で俺がその女を紹介されなきゃなんねえの?」 「………… 」 「すっきりさせるって何? 元々俺が女の子が好きだからって何?……今好きなのは修斗さんなんだけど」 今まで聞いたことない低い声。俺は康介を見つめながら体を起こす。 「違うよ。今好きでもさ、俺が卒業したら段々そんな気持ちも薄れてくんだよ……何で男となんか付き合ってたんだろうなって思うんだよ。だからさ、そろそろいいんじゃね? ……楽しかったよ。ありがとう康介」 好きだからってずっと一緒にいられるわけじゃない。 男同士だから、結婚だって出来やしない。 好きの気持ちが大きくなる前に別れてやらなきゃ……俺と一緒にいたって康介は幸せになんかなれないから。 気がついたらベッドに座った俺の目の前に康介が立っていた。 「ただでさえ男同士だってことが凄い不安なのに……ずっと避けられた挙句に綺麗な女の人と楽しそうに一緒にいて……凄くそれがお似合いで……もういいだろ? なんて言われて、わけわかんねえよ。いいわけないだろ!大丈夫なわけないだろ!」 目に涙を溜め、捲し立てるように康介は話す。 「不安なのは自分ばっかだって思ってんじゃねえよ! 勝手に俺のこと諦めてんじゃねえよ! 俺が修斗さんのこと飽きたとか決めつけてんなよ……飽きるわけねえじゃん……どんどん好きな気持ちが大きくなって……小さくなることなんかないのに。どうしてくれんだよ……」 とうとう泣き出してしまった康介に俺は言葉を失う。 そういえば、康介は泣きながら俺に告白をしてくれたんだっけ…… 好きになってごめんって。気持ち悪くてごめんって……涙をこぼしながら震えて俺に告白をしてくれたのを思い返す。 康介だって不安なんだ…… 「色々覚悟して……俺がどんな思いで告白したかも知らないで! そんな腑抜けたこと言ってんじゃねえよ! 修斗さんがそんな情ない人だとは思わなかったよ! もう知らねっ、勝手にしろ! そんな修斗さん、こっちから願い下げだよ! お望み通り別れてやる!」 俺に向かって泣きながら怒鳴りつけた康介は、そのままバタンとドアを開け出て行ってしまった。 「………… 」 しんと静まり返ったこの部屋に一人取り残された俺は、途端に寂しさに押しつぶされそうになる。 とうとうフラれてしまった…… 嫌われてしまった。 わかっていたけど、やっぱりキツイな。 自分が悪いってわかってる。 でも怖かったんだ…… 康介が他の女に向いてしまうくらいなら別れた方が絶対に楽だって、そう思ってたはずなのに。 なんでこんなに苦しいんだよ…… 涙が勝手に溢れてくる。 「くそっ……くそっ! 何でなんだよ! 何でこんなに辛いんだよ!」 過ちだったのかもと気がついてももう遅い。 涙が止まらなかった。 このまま消えてしまいたかった。 自分が傷つきたくないばかりに、大切な人をこれでもかってくらい傷つけてしまった。 本当に終わってしまった…… もう戻れない。 友達にすら戻れない。

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