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幸せのお裾分け

ばらばらと人が集まり、あっという間に店内には大勢の人。みんな楽しそうに談笑している。 立食形式のフランクなパーティー。でも周りを見渡すと大人だらけで、僕なんかがこの場にいていいのかとちょっと尻込みしてしまった。なるべく周さんの側から離れないように、僕は周さんのスーツの裾を掴んだ。 「結構客、多いんだな……なんかもう始まる前から疲れてきた」 周さんが怠そうに僕を振り返る。 がやがやとした中、司会らしき人が前の方へ出てきてマイクで話し始めた。新郎新婦が入場するので暖かい拍手で迎えるようにとその人が言い、しばらくして入り口が開き雅さんと謙誠さんが並んで入場してきた。 「うわぁ! 雅さん綺麗!」 思わず声を上げてしまい、近くにいた女の人にチラッと見られてしまった。 「竜太君興奮しすぎ」 靖史さんもそんな僕を見て笑ってる。 だってウエディングドレスを着た人を間近で見たことなんて一度もないから……しょうがないじゃん。 謙誠さんと腕を組み、二人とも照れくさそうにはにかみながら店の中を進んでくる。 僕はもうそれだけで幸せいっぱいな気分に包まれ、手のひらが弾け飛ぶ勢いで盛大に拍手を贈った。 二人が前に並び挨拶をする。 本当に幸せそうで、素敵な笑顔を浮かべ挨拶をしている様子を見て、なんだか感極まって泣きそうになった。感情が忙しすぎて僕は興奮しっぱなしだ。 幸せのお裾分けってよく聞くけど、本当にお裾分けしてもらったような気分になり、思わず隣に立つ周さんを見上げる。周さんはそんな僕の気持ちを知ってか優しく微笑んでくれ、僕の肩に手を回し抱き寄せてくれた。 謙誠さんの友人と雅さんの友人が順にスピーチをする。 雅さんは周さんを妊娠し、すぐに家を出て勘当同然で今まで過ごしてきたから地元の友達や家族、親戚なんかとも全く付き合いがなかったらしい。だから周さんは祖父母とも会ったことがない。それは今でも変わらない。 ずっと二人きりで生きてきたんだ…… 僕は雅さんの事を、周さんからそういう風に聞いていた。 それでも謙誠さんの計らいで、幼少期に雅さんと仲の良かった友達数人を呼ぶことが出来たらしく、雅さんは嬉しそうにその友人達と談笑していた。そんな姿にまた僕は胸が熱くなった。 新郎新婦二人して、あちこち動き回りながら談笑しているので緊張していた僕も段々と気が楽になってくる。 「周さん、僕食べ物取ってきてもいいですか?……てかもう食べてもいいんですよね?」 ついさっきみんなで乾杯をしたし、歓談とお食事をお楽しみくださいって司会の人も言っていたはず。でも周りの大人はお喋りに夢中で料理に手を伸ばしてる人があまりいない。 ビュッフェ形式の食事もどれも美味しそうで、オードブルからデザートまで全部食べてみたくてどうしても目移りしてしまう。周さん達の演奏までの間、僕は食べられるだけ皿に盛り付けながら店内をうろうろしていた。 周さんのところへ戻り、自分で盛り付けた皿を見てもらう。 「ほら! こんなにいっぱい取ってきちゃいました。一緒に食べましょ!」 周さんはさっきから何も食べずに飲み物を飲んでばかり…… それ、お酒じゃないよね? 靖史さんも僕に劣らず沢山の食べ物を皿に乗せもりもりと食べてる。そんなところに楽しそうな雅さんが来てくれた。 「んーっ! 竜ちゃん! 今日は一段とカッコいいわね。素敵よスーツ。似合ってる」 「………… 」 「あら? どうしたの? 竜ちゃん?」 目の前に来た雅さんが綺麗で素敵で見惚れてしまった。 スッキリと体にフィットしたデザインのシンプルなウエディングドレスだけどスカートの丈は短い。 「雅さん、おめでとうございます。あの……凄く素敵です!」 思ったままそう言うととびきりの笑顔で喜んでくれた。 「聞いてよ、周ったらね、歳考えろババアなんて言うのよ! 酷いわよね。全く照れてんじゃないわよ」 雅さんは笑って周さんの頭をくしゃくしゃと撫でる。 「照れてねえよ、スカート短いんだよ。お前何歳だよ……」 「もぉっ! 似合ってればいいんですぅ!」 「………… 」 確かに、僕の母さんは短いスカートのドレスはやめておいた方がいいな。 雅さんだから似合うんだね……

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