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康介

「結婚する、しないは俺の勝手だし、どんな形にしろ俺と相手が幸せだと感じる事を最優先にするだけだ……」 「………… 」 周さんはいつも僕の不安に思うところを拭ってくれる。 男同士で後ろめたい気持ちが無いと言ったら、やっぱりそれは嘘になるわけで……みんなに祝福される恋じゃないのも、もうわかってる。 それでも僕は周さんと一緒にいたいから、もっと周さんみたいに強くならなきゃいけない。きっと周さんだって不安な時もあると思う。でもそれを見せないように、自分自身に言い聞かせてるところもあるんじゃないかなって思うんだ。 「誰もがみんなお前みたいなお気楽ポジティブマンなら苦労ねえわな……」 嫌みたらしくボソッとそう呟いた修斗さんの声を周さんは聞き逃さなかった。 「あ? 聞こえてんぞ!……お前、自分がフラれたからって俺にあたんなやムカつくな」 周さんが修斗さんに食いつくも、修斗さんはふいっと店を出て行ってしまった。 「またもうっ! 周さんたら!」 修斗さんだって本気で言ったわけじゃないのはわかる。僕は急いで修斗さんを追いかけようとしたけど周さんに腕を掴まれ止められてしまった。 「ほっとけって……竜太が行ったってどうしようもねえだろ?」 キツい言い方をしていた周さんもちょっと悲しげな表情を見せるもんだから、胸がズキンと痛んだ。 靖史さんは「二次会に行くぞー!」とご機嫌な謙誠さんに連れて行かれてしまったので、僕と周さんは家に帰る。 今日は周さんのアパートに泊まるつもりでいたのだけれど、康介と修斗さんが別れたなんて聞かされて、僕はそんな気分ではなくなってしまった。 康介と会って話がしたい……康介の事が心配。 周さんだってあんな風に言ってはいたけど、きっと修斗さんの事が心配なはずだから。 「周さん、今日は僕帰ります。やっぱりどうしても康介の事が気になっちゃって。康介の家に行ってきます」 周さんはそんな僕の気持ちを汲んでくれたのか、不満そうな顔ひとつせずに家まで送ってくれた。 康介にメッセージを入れる。既読がついたから読んではくれてるみたいだけど返信はなかった。どうせ家にいるんだろうと、構わず僕は康介の家へ向かった。 呼び鈴を押すとすぐに康介が顔を出す。 「なんだよ……もう夜だぞ?」 面倒くさそうに眉を寄せた。 「康介、僕に何か言うことない? 何か隠してない? とりあえずお邪魔します!」 小学生の頃は何度も何度も遊びに来ていた康介の部屋。僕は迷うことなく真っ直ぐに二階に上がり康介の部屋へ入った。 「おばさんは? 康介一人なの?」 「あぁ、今は誰もいないよ。てかさ、俺もう寝たいんだけど……」 明らかに不機嫌なのは僕が何しに来たかわかってるからだ。 「寝るってこんな早くに康介が寝るわけないじゃん。ねえ、修斗さんと別れたってどういうこと?」 僕は単刀直入に康介に聞いた。 言葉を選ぶ余裕は僕には無かった。 言ってすぐ康介に睨まれてしまいハッとする…… 「どうもこうもその言葉のまんまだけど?」 ベッドに入るなり壁の方を向いてしまう康介に何でだと問い詰めたら、とうとう怒り出してしまった。 「何なの? 俺と修斗さんのことだろ? 竜には関係ないじゃん!……ほっとけよ!」 「だって!……だって今日の修斗さん、僕には泣いてるように見えたんだもん! あんなに元気のない修斗さん、見たことないよ! 何で? 修斗さんの事嫌いになっちゃったの?」 「………… 」 また康介が顔を逸らす。 「悪い……帰ってくれるかな?」 「……康介」 そのまま康介は布団に潜ってしまった。 「康介?」 「………… 」 「康介ってば!」 「うるせーな! 帰れって言ってんだろ! 出てけよ! もうほっといてくれ!……帰れ!」 ベッドから飛び出してきた康介に肩を押され、僕は部屋から追い出されてしまった。 今まで康介と一緒にいて、怒鳴られた事なんて一度だってなかったのに。康介と修斗さんの事が心配なあまり、また余計なお世話をしてしまったと後悔した。 本気で怒らせてしまった…… でも、でもやっぱり僕は納得がいかない。 修斗さんだって康介だって、別れるなんておかしいよ。 康介に掴まれた肩がズキズキと痛んだ。

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