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手遅れだから……
「なんだよ……慰めてくれるんじゃねえの?」
鼻と目を赤くした修斗が顔を上げ、俺に文句を垂れる。
修斗は自分の気持ちを隠してヘラヘラするのが得意だ。長い付き合いの俺は何となくこいつの思ってることや感じてることは察することができていたけど……それにしたって今の修斗はぼろぼろなのが丸わかりだった。鈍感バカなお袋にまで様子がおかしいってバレてやがる。
こうやって俺の前で涙を見せられるんなら、素直に康介に気持ちをぶつけることだってできるだろうに、それをしないのはどうしてなのだろう。それ程に辛いのなら頑なにならずに素直になればいいのに。
「……慰めてほしい? 素直に康介にゴメンって言えばいいんじゃねえの?」
ムゥっとした顔で俺を睨む修斗に俺は続けた。
「お前自信がねえって言うけどよ、なんでだ? 康介のことまだ好きなんだろ? 別れて後悔してんだろ? ならさっさと謝りゃいいじゃん」
「……簡単に言うな」
いや、簡単なことだと思うから言ってんだけどな。
修斗は鼻を啜り、手のひらで涙に濡れた頬を拭う。
「周のその自信はどっから湧いてくんの? 竜太君がずっと周の事が好きだってどうして信じられる? 何でずっと一緒にいられるって思うわけ? 男同士だぞ? 俺は康介とずっと一緒にいたかったけど……きっと康介は気がつくんだ。女の方がいいってさ」
……? ちょっと何言ってんのか分かんねえぞ?
「は? 竜太がこの先俺のことをどう思うかなんて俺にはわかんねえよ。人の心がどう動くかなんて俺にわかるわけねえだろ? あのな、竜太が……じゃなくて俺が、な。俺が竜太の事をずっと好きでいられる自信があるってこと」
「………… 」
ぽかんとしている修斗の顔を覗き込む。
「だって好きなのに。まだ好きなのに自分から離れるなんて、そんなのおかしいよ!」
竜太ならこうやって言うだろうな……って思ってちょっと真似して言ってみた。
「……竜太君の真似したって可愛くねえから。やめろよ、余計にムカつく」
心底くだらないと言った顔で溜息を吐く修斗。俺はそんな修斗の頭を脇に抱えて頭をぐりぐりしてやった。
「痛えな! ばかっ……力強えんだよ! もう! 離せってば……離せ……よ… 」
ちょっと抵抗して元気になったかと思ったけど、ダメだった。俺の腕に捕まったままの修斗はそのまままた泣き始めてしまった。
「……俺、俺バカみたいだ。周の言う通りだよな……うん、康介の気持ちなんて康介にしかわからないよな。なのになにやってんだろうな俺は」
修斗の肩が震えてる。
俺には康介と別れるまでの修斗の言動が全く理解できなかったけど、でも泣くほど今でも康介のことが好きなんだっていうのはよくわかる。
「俺さぁ、康介のこと……すげえ傷つけちゃったな。取り返しつかないことしちゃったなぁ……」
「康介とちゃんと話せよ」
消え入りそうな声で話す修斗の頭をそっと抱いてやるとそのまま顔を埋めて更にメソメソと泣く。
「ちゃんと話したくてももう遅いんだよ。も……もう……怒らせちゃったから、ダメなんだよ……手遅れ……なんだ」
「………… 」
そこは無責任に「大丈夫だ」とも言えず、俺は嗚咽を漏らし泣き続けている修斗になんて声をかけてやればいいのかわからずに、ただ気休めに頭を撫でてやることしかできなかった。
どれくらい経ったのだろう。ふと顔を上げた修斗と目が合った。
「ごめん……俺、もう帰るわ。大丈夫。みっともないとこ見せた……」
俺の腕から慌てたように抜け出した修斗がフラつきながら立ち上がる。
こんな夜中にそんな目を腫らしてグズグズな顔して帰らせるのも心配だから引き止めた。
「いいよ、気にすんな。今日は泊まってけ。そんな顔してフラフラしてたら絡まれんのがオチだぞ」
「周が優しくて気持ち悪い……」
ボソッと俺に悪態をつき、遠慮なしに俺のベッドに入って寝始める修斗に溜息がでた。
「まぁいっか」
しばらくの間、深夜の通販番組をぼんやりと眺める。
修斗の整った寝息を確認してから、俺は康介に電話をかけた。
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