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売り言葉に買い言葉/康介の思い

売り言葉に買い言葉…… あの時の俺はまさにそれだった。 修斗さんが散々わけのわからない事を言っていて、結局は俺の心がそのうち離れるからそうなる前にスッキリきっぱり別れましょ、って事だとわかった。そう理解した時には既に頭に血が上ってしまっていた。 俺が女に目が向くようになるとか、男の修斗さんと付き合ってる事に疑問を持つとか、勝手に想像して落ち込んで……そんな修斗さんに俺はずっと長い間モヤモヤさせられて辛い思いをさせられて。 はっきり言って「ふざけんな!」って思った。 修斗さんは全然俺のことわかってくれてなかったんだって、そう思って悲しくなった。 ……悔しかった。 だって俺がどんだけ悩んで、どんだけ勇気を振り絞って修斗さんに想いを打ち明けたと思ってんの? 付き合ってからだって、いろんな人に愛想のいい修斗さんにどれだけ俺がやきもきしてたか、修斗さんは自分が凄いモテるんだって事ちっともわかってない。俺は自分に自信なんてないから……やきもち以上に凄く不安だった。 なのにさ、なのになんなの? そろそろ男も飽きてきただろ? 俺はもういいからさ……って何? 「俺はもういいから」なんて言ってるくせに、なんて顔してんだよ。 自分で言っておきながら、なんでそんなに泣きそうな顔してんだよ…… バカなの? あんな顔した修斗さんなんか見たくなかった。 挙げ句の果てに、修斗さんと楽しそうにデートしていた綺麗な女の人……竜の家庭教師らしいけど、そいつを俺に紹介するなんて言い出した。 凄く軽い口調で、俺の事馬鹿にしてる。 でもやっぱり辛そうな表情は変わらない。修斗さんは言ってる事と思ってる事がきっと違うんだ…… ほんと、なにやってんだよ。 辛そうな修斗さんを見ていられなくて、心にもない言葉を吐き続けるのを止めたくて、俺は思わず修斗さんをベッドに突き飛ばしてしまった。 修斗さんに自分の気持ちを全部ぶつけた。腹が立った事もちゃんと伝わったはずだ。 俺が今好きで一緒にいたいのは修斗さんなんだ! なんでそんな事もわかってくれない? 言いながら益々腹が立ってきてしまい、それでも「楽しかったよ。ありがとう」なんて、まるで別れるみたいな言い方をされて俺は堪らず涙が溢れた。 悔しい…… なんでなんだよ! なんで俺の気持ちを修斗さんが勝手に決めるんだよ! そのあとの俺は感情に任せ思いの丈を全部ぶちまけ、そしてそのまま「お望み通りに別れてやる」って吐き捨ててから、勢い余って修斗さんの部屋を出てきてしまった。 やっちまった。 一度俺の口から出てしまった言葉たちは元には戻せない…… 歩きながら涙が溢れる 嗚咽が漏れる。 今更修斗さんの部屋へは戻れない。 こぼれ落ちる涙なんかどうでもいい。すれ違う人がギョッとして俺のことを振りかえったって、もうどうでもいい。涙を拭うこともせず、やけっぱちで家に帰ると、見慣れた一足の靴に気がついた。 「なんだよ……何でよりにもよってこんな時に帰ってくんだよ」 俺は小さく悪態をつきながら、兄貴に気がつかれないように自室へ向かった。

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