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覚悟とか将来のこととか……

「俺……修斗さんと別れた」 言葉に出して言うと、更に実感が湧いてくる。 「ずっとモヤモヤしてたけど、結局修斗さんが別れたがってるみたいで……俺、キレちゃった」 兄貴に頭を撫でられながら、俺はポロポロと言葉を零した。 「………… 」 兄貴は黙ったまま…… 何か慰めの言葉でも考えてるのだろうか? こんなこと言われてどうしていいかわかんねえよな。 ごめんな、兄貴。 「そっか別れたか! まぁよかったんじゃね?」 ……え? 思いがけなく軽い言葉が降ってきて、思わず拍子抜けして顔を上げる。 「は? よかったって何?……なんだよ! こういう時はさ、慰めてくれんじゃねえの? 何がよかっただよ! よくねーから俺、泣いてんだろうが! やっぱ兄貴ムカつく!」 「なんだよ、俺に慰めてもらいたかったのか! そっかそっか、よしよし可哀想に……」 兄貴は半笑いで俺の事をぎゅーぎゅーと抱きしめ、これでもかってくらい頭をくしゃくしゃに撫で回した。 「くそっ! 放せよ! ……そうじゃねえよ! 違うって!やめろ! そんなんじゃねえってば!」 兄貴の腕からなんとか逃れ、睨みつけるもケラケラと笑い転げる姿に腹が立ち、その横腹を蹴りつけた。 「ははっ……悪い。でもさ、ほんとよかったんじゃね? っつうのは俺の本心だよ」 蹴られた脇腹を摩りながら、兄貴は俺の横に腰掛け直す。 「修斗は別れたがってたんだろ? 修斗の事はわからねえけど、お前はさ……前は女と付き合ってたじゃん。俺や竜太君の事見てたから何となく抵抗なく修斗と付き合ったんだろうけどさ、ほらもうあいつも卒業じゃん? 別れたがってんのはさ、そういう事なんじゃねえの? 後々傷付けられるより、この段階での軽傷でよかったじゃん。お前も修斗もな」 ……なんだよ、真面目な顔して修斗さんと同じような事言いやがって。 「俺は、俺は修斗さんの事、ちゃんと好きだもん……何となくなんかじゃねえし! なんでみんなして俺の気持ち決めつけるんだよ」 「ちゃんと好きって……修斗もお前の事ちゃんと好きなのかな? ちゃんと好きならこんなことにはならねえんじゃね?」 「………… 」 それもそうだ。返す言葉が見つからない。兄貴の言葉に俺は何も言い返せなかった。 「そもそもさ、男同士だろ? 遊びで付き合ってんならともかく、本気で好きとか言うならちゃんとそれなりに覚悟してんの? 大袈裟かもしれねえけどさ、将来の事とか相手の事とかちゃんと考えた事あんの?」 「………… 」 なんだか一気に冷めてしまった。 あんなに悲しくて辛かったのに、兄貴に色々と言われてるうちに不思議とどんどん気持ちが冷めてくるのがわかる。 多分俺、ちゃんと考えるのが面倒なんだな。 でも遊びで付き合ってたわけじゃない。初めて本気で好きになったのが、きっと修斗さん。 でも、将来の事? それなりの覚悟? ……そっか。 結婚して家庭を持つ事もできるわけもなく、ずっと恋人同士っていう関係が続くのか。そしてこうやって喧嘩したり、やきもきさせられたり。 あ…… なら俺は一生独身? お嫁さんをもらう事もないんだ。 正直言ってそんな先の事なんか考えた事なかった。 「なんてな!……そうは言っても結局自分がどうしたいかが大事だよな」 俺がぼんやりと考えていると、兄貴はそう言って軽く笑って部屋から出て行った。 「………… 」 なんだか疲れた。 もう一度俺はベッドに潜り込みそのまま眠った。

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