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無我夢中
俺はもう夢中で竜の家へ走った。
居ても立っても居られないってこういうことを言うんだな……なんて、頭の片隅の冷静な部分の俺がちょっとだけ考える。
今まで生きてきて、こんなにも誰かを思って無我夢中になったことあったかな?
カッコ悪いんだかカッコいいんだか、わかんねえや──
竜の家のチャイムを鳴らす。
案の定、竜の母ちゃんが顔を出し、困ったような顔で俺を追い返そうとした。
そりゃそうだ……
それでも俺はちょっとでいいから時間をくれと頼み込み、半ば強引に竜の部屋のある二階へ足を進めた。
勢いよく竜の部屋のドアを開けると、びっくりした顔の竜と家庭教師。
うわ……
あの時はじっくりと顔を見なかったけどやっぱり綺麗な人だと思ってちょっと尻込みしてしまった。
修斗さんとお似合い。美男美女のカップル。そう思うとみるみる妬ましさが湧き上がる。
キョトンとした二人に一瞬気持ちが怯んだけど、気を取り直してまずは自己紹介をした。
それからは夢中で思いの丈をぶちまけた。
何で俺、言いたい事をちゃんと纏めてこなかったんだろう……って、言葉を吐き出しながら思ったけどもう手遅れ。「俺から修斗さんを取らないでください!」だなんて、なんだかかっこ悪いな。
でも止められなかった。
だって修斗さんを誰にも渡したくないんだ。
この人が修斗さんのこと好きなのもわかってる。わかってるけどこれだけはどうしても譲れない。どんなに二人がお似合いでも、俺の知らない修斗さんの事をこの人が知っていようとも、悔しいけど譲れない。
話を聞いてもらって、この人に諦めてもらわないといけないんだ……
卑しいのはわかってる。凄え恥ずかしいこと言ってるのもわかってるよ。
でも好きなんだからしょうがないじゃん。
泣けてくるほど好きなんだよ。
プライドなんかどうでもいい……
俺は修斗さんの元カノに向かって思いっきり頭を下げた。
顔を上げろと言われ、怒られると思った。突然現れた変な男にこんなこと言われたんだ。しかも恋敵が男だなんて、どう思っただろう。ムカつく以外にねえよな……
俺は恐る恐る顔を上げ、目の前の元カノの顔を見る。
彼女は特に怒ってる風でもなく、逆に優しい表情を浮かべて俺に話しかけてくれた。
「康介君、何か誤解してる? 私、別にあなたから修斗君を取り上げたつもりないし、修斗君とはなんでもないわよ……」
へ? なんでもない?
いや、何でもないというか、まだ何もないって意味だよな?
竜はこの元カノの反応を見てホッとした表情を浮かべてるけど、俺にはわかる。
この人も修斗さんの事が好きで……
それでも俺に気を遣って「何でもない」って言ってくれてる。
……身を引こうとしてくれてるんだ。
この人には似合わない、修斗さんの男らしいデザインのピアスが、髪の間からチラッと見えた。
胸がキュッてなった。
俺との思い出のピアス。いまだに未練がましく俺の耳についてるお揃いのピアス。泣きそうになるのを必死に堪えた。
「突然なんなの? この前の子よね? あの時はびっくりして怖かったけど……あ、そうか! ……成る程ね」
少し考え込んでから、クスッと笑う。
「康介君は修斗君の恋人だったのかしら? ごめんなさい。君の話、理解するのにちょっと時間がかかっちゃった」
……あ!
無我夢中でここに来て修斗さんへの思いぶちまけちゃったけど、俺はともかく修斗さんまでこの人に男と付き合ってたってバラしちゃってんじゃん俺!
「あ……いや! その、違うんです……じゃなくて、あ……えっと……その……はい……」
ここまで言ってしまったらもう誤魔化しようもなく、ただただしどろもどろになるしかなかった。
やべぇ。やらかした。
修斗さん、ごめんなさい……
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