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俺だって康介と……

康介にフラれてからというもの、俺は今まで経験したことのない虚無感に襲われていた。 とりあえずは学校に足を運ぶけど、朝から保健室にいることが殆どで高坂先生にも心配されてしまった。 「なにやってるの? 君たちは……若いねぇ」 何か言いたげな顔をするものの問い詰めることもなく、かといって教室に帰れというわけでもなく、軽口を叩く先生に俺は気持ちが少しだけ楽になる。 それでもやっぱり考えるのは康介のことばかりで辛くなって保健室から教室へ、そしてまた家に帰るの繰り返し。部屋にこもってぼんやりすれば、知らないうちに涙が溢れている始末…… 「うわっ、俺……気持ち悪っ」 なんだか自分じゃないみたいだった。 もちろん碧ちゃんともあれっきり会っていない。何度かメッセージや電話が来たけど、俺は毎回都合が悪いと断った。もうデートなんて気分じゃなくなってしまった。 自分からモーションかけてたくせに、俺はなにやってんだろうな。 碧ちゃんにも悪い事をしてしまった。 どんなに俺が気分が落ちてても、普通に毎日は過ぎていく。 そんな中、雅さんの結婚パーティーがあった。数日前から、そのパーティーでお披露目するお祝いの曲の練習も兼ねてスタジオに入る。周が作ったお祝いのこの曲は、短いながらも凄くいい曲だった。 普段の周はどうしようもなく我儘で、喧嘩っ早くて周りから怖がられているような人物だ。でもちゃんと周と関わった人間は、こいつがどんなに真っ直ぐでいい奴かって事を知っている。 そんな真っ直ぐな周らしい、素直に感謝する気持ちがたくさん込められた最高の曲。 ……正直俺には妬ましいだけだった。 雅さんには凄くお世話になってるのに、心からお祝いをしたいのに、今の俺にはそんな余裕が全くなかった。 申し訳ない気持で一杯で俺はお祝いのパーティーに参加した。 結果俺の様子を見た雅さんにも心配され、パーティーの主役に俺は悩み相談みたいな事をしてしまった。……いや、俺が頼んだわけじゃない。心配した雅さんが色々と聞いてきてくれ慰めてくれたんだ。でも雅さんも周と同じで人の話をあまり聞かない。とりあえずこの店のバイトの女の子を紹介するって言い出したので丁重にお断りをして俺はその場から逃げた。 パーティーも終わり、俺は真っ直ぐ家に帰る。 今日は家には誰もいない。 また一人の夜を過ごす…… こんな時は特に寂しさが増してダメだな。 別に家族団欒がしたいわけじゃない。 顔を合わせて話なんかをしたいわけじゃない。それでも広い家に人の気配が全くないっていうのが俺には寂しく感じてしまうんだ。 なるべく康介の事を考えないように、早く眠ろうとベッドに入る。そういえば、さっき俺は周に嫌な事言ったな……完全に八つ当たりだ。横になって眠りにつく前、色んな思いが頭を巡る。良いことでも悪いことでも、余計な事ばかり考えてしまう。 (結婚するしないは俺の勝手だし、どんな形にしろ俺と相手が幸せだと感じる事を最優先にするだけだ……) 竜太君との将来を、あんなに明るく断言している周が羨ましかったんだ。 俺だって…… 俺だって康介と幸せを感じていたかった。 『さっきは八つ当たりだ。ごめん』 枕元に放った携帯を取り、周にメールでさっきの事を謝った。 今頃は竜太君が来てるだろうし、邪魔にならないようにメールにしたのに、すぐに周から電話が入ってちょっと焦った。 でも竜太君もいないし暇だから来いって言う周の言葉に俺は二つ返事で部屋を出た。 やっぱり一人でいたくない。

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