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溢れ出る思い
この先康介が女を好きになるかなんてわかりゃしない。
心変わりするかしないかなんて、その時が来なきゃわからないんだ。
なんで俺が康介の気持ちを決めつけてたんだろう。
「だって好きなのに。まだ好きなのに自分から離れるなんて、そんなのおかしいよ!」
せっかく気持ちが少し晴れてきたって時に、周が甘い声色で竜太君のモノマネをしながら微笑みかけてきた。
凄え竜太君に似てるけど……クソむかつく。
文句言ったらおもむろに周に抱きすくめられギュウギュウと締め付けられる。
いつもこうだ。
イラつかせて元気付けてやろうって魂胆が見え見えだ。
昔から変わらない周の匂い。
安心する懐の温もり……
痛いから離せ、と抵抗しつつもまた涙がこみ上げてきて、どうにもこうにもグズグズになる俺は周の胸でまた後悔の思いを吐き出した。
どんどん溢れてくる康介への思いと後悔の思い。
周はどうしようもなく泣き続ける俺を抱きしめ、ずっと優しく頭を撫でてくれていた。
「……俺、俺バカみたいだ。周の言う通りだよな……うん、康介の気持ちなんて康介にしかわからないよな。なのになにやってんだろうな俺は」
康介も碧ちゃんも酷く傷つけてしまった。そして俺自身も。
失ってから気がつくなんて本当にバカだ。
「………… 」
いや、ちょっと待て。
いくら俺と周にその気が無くてもこの状況は……
俺はしっかりと周に抱きしめられ頭を撫でられ慰められている。竜太君はこの場にいないけど、この状況は絶対に快く思わないだろう。
ちょっと甘え過ぎた……ほんと何やってんだか俺は。
自分の醜態に嫌気がさす。慌てて周から離れ、俺は礼を言ってから帰ろうと玄関に向かった。
それでも俺の酷い顔を見た周は、絡まれるのがオチだから泊まっていけと言ってくれ結局その言葉にまた甘えて俺は周のベッドで眠らせてもらった。
沢山泣いて弱さを吐き出せたからか、久しぶりに何も考えずにぐっすりと眠れた。
翌朝周に礼を言い、家に帰る。
俺は康介にフラれてしまったけど、康介の事を好きでいることは俺の勝手だよな。
きっともう恋人に戻ることは出来ないけど、これは自分でそうしてしまった結果だ。結果は最悪にしてしまったけど、でも俺は初めての恋愛、恋を知ることができてよかったと思うようにしよう。
片思いはしんどいけど、しょうがない。
未練はないと言ったら嘘になるけど、それでも昨日までの俺と比べたらマシ、ずっと気持ちが吹っ切れていた。
学校にもちゃんと行き、保健室に逃げることも少なくなった。
周に毎日のように昼を誘われたけど、一緒にいればきっと竜太君と康介も一緒になると思ったから断った。
やっぱりまだ顔を合わせ辛いから……
たまに廊下で康介の姿を見かけることもあったけど、俺は視界に入らないようにそっと隠れた。
放課後、俺は保健室で高坂先生と軽くお喋りしてから教室に戻る。口には出さなかったけど、先生にも心配させてしまったと思うから……もう大丈夫だよって事を感じてもらえたらいいなってそう思った。
教室に鞄を取りに戻り、みんなからだいぶ遅れて下校する。
ひとり下駄箱へ向かうと、下駄箱の陰に誰かが立っていた。
……まさかな。
その人物に近づくにつれ、俺の心臓が煩く響く。
俺が見間違うはずもないその後ろ姿は、康介だった──
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