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逃げる……
「やっと会えた……」
俺の気配に気づいたのか、康介が振り返り笑顔を見せた。
……なんで? なんで俺に笑いかけてくれるんだ?
最後に会ったあの日の康介の顔が蘇る。
嫌悪をむき出しにした康介の顔。涙を流し悲痛な表情を俺に見せ「別れてやる!」と吐き捨てた康介の顔。
あの時とは正反対な、俺が大好きな優しい顔で康介が俺を見つめていた。
「修斗さん?」
一歩一歩、康介が俺に近づいてくる。
どうしよう。
俺はどんな顔をして康介を見ればいい? ていうか、康介に謝らないと!
でも……
でもどう言えばいいんだ?
俺が未練タラタラだってわかったら、また康介を困らせてしまう。
あの笑顔をまた曇らせてしまうかもしれない。
でも……
俺の気持ち、伝えたい。
ちゃんと謝って、好きだって伝えたい。
でも……でも。
「はぁ? ちょっと?! 修斗さん??」
俺は混乱して思わず康介から逃げ出してしまった。歩いてきた廊下をまた逆戻り。
まだ!
まだ心の準備が……!
康介の悲しむ顔は見たくない。
俺に対して蔑む顔も見たくない。
背後から康介が何か叫びながら追いかけてくる。
なんだよ! 追いかけてくんなよ!
俺は夢中で廊下を走り、気付いたら屋上へ続く階段を上がっていた。
「ふざけんなよ! 待てってば!」
屋上へ上がりきる前の階段の踊り場でとうとう俺は康介に捕まってしまった。
力強く康介に腕を掴まれる。
息が上がって喋れない……
「なんで逃げるの? ねぇ! 修斗さん? 俺の方が足早えんだから逃げられるわけねえじゃん!」
「………… 」
やっぱり……俺を見る康介は笑っていた。
「なんで……なんで」
「ん?」
俺はその場にへたり込み、顔を見られないように下を向いた。
「なんで康介笑ってんだよ。俺のこと……俺、俺…… 」
ダメだ。
言葉が出てこない。
「……!?」
突然康介が俺の事を優しく抱きしめる。フワッと鼻先を擽る懐かしい匂い。
「……ゴメンね。修斗さん……ゴメンね」
「………… 」
康介の言葉に視界がぼやけた。
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