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好きです
「修斗さん……」
俯いて、へたり込む俺の頬をそっと挟み顔を上げさせる康介。久しぶりのその手の温もりに、俺は抵抗出来ずに顔を上げた。
「え?……なんで泣いてるんですか?」
康介の掌が頬を撫でる。
じっと見つめられ恥ずかしいけど、俺には涙を止めることができないし言いたいことも出てこない。
「………… 」
「ここじゃアレだから……とりあえずあそこ、行きましょ」
康介の言う「あそこ」というのは二人の秘密の場所のことだとすぐにわかった。
康介に手を引かれ、屋上のあの場所まで歩く。その間、康介も俺も黙ったまま……
「こんな時間だし、もう誰もいませんね」
屋上に出て周りを見渡した康介はボソッと呟き、そして奥へと足を進めた。
壁にもたれて二人で座る。
チラッと康介の顔を盗み見ると、もうさっきの笑顔は消えてしまっていた。
「修斗さん。俺……言わなきゃいけないことがあるんです」
……嫌だ。
難しい顔をした康介が何を言い出すのか、考えるだけで心臓が張り裂けそうだった。せめてまた友達の関係になれたら……なんて考えは甘かったのか。怖くて康介の顔が見られなかった。
「ねぇ、修斗さん、俺の方ちゃんと見て」
……嫌だ。
俺の顔を覗き込む康介と目が合ってしまう。
「修斗さん、泣かないで……俺、俺、酷いこと言ってゴメンね。別れてやるなんて言ってゴメンね」
康介の顔が近づいてくる。額が俺の額とぶつかった。
酷いことって……
俺の方が康介に酷いことしてきたのに。
「俺わかったんだ。どんなに修斗さんが俺のこと避けても、俺は修斗さんの側にいたいし笑った顔を見ていたい……」
「………… 」
康介の手が俺の頬にそっと触れる。
ジッと見つめる康介の瞳からも涙が溢れそうになっていた。
「好きです……俺とまた付き合ってください」
瞬きの瞬間、康介の瞳から大粒の涙がぽろっと溢れた。
「……ごめん。康介……ごめんな」
康介がまた俺と付き合ってほしいと言ってくれた。
信じられない……あんな酷い仕打ちをしてきたのに、許してくれるというのか? 嬉しくて涙が止まらない。
俺だって康介のそばにいたい。
二人で笑っていたい。
でもまた泣かせてしまった。
申し訳ない気持ちでいっぱいで、俺は康介にやっとゴメンと言うことができた。
康介の手をそっと掴み、もう一度、ちゃんと目を見て俺は謝る。
「康介……ごめんな」
すると康介は怯えた様子で小さくイヤイヤをするように首を振った。
「俺、俺は…… 康介に…… 」
「やだ! 聞きたくないから! 俺はどんな事があっても修斗さんのこと好きだよ? ねぇ、無理なんて言わないでください。ごめんなんて言わないでよ……俺、修斗さんじゃなきゃ嫌なんだ。他の人に取られるなんて嫌だ。ゴメンなんて言わないで!」
あ……違う。そうじゃない。
康介は俺が否定の言葉を言うのかと思ったのか声を荒らげ慌てたように捲したてる。
「康介……違う。そうじゃないんだ。俺は…… 」
「修斗さんだってまだ俺のことちょっとでも好きでいてくれてるんでしょ? あの時の言葉は本心じゃなかったんでしょ? 俺の心が離れると思って寂しかったんでしょ?……やだよ! 元カノのところになんか行くなよ!」
違う!
ごめん康介……泣かないで。
「……違うよ! 落ち着けって!」
今度は俺が、涙する康介を抱きしめた。
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