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仲直り
「どういうことだ? 康介」
「………… 」
僕、何かマズいこと言ったかな? 不安になって周さんを見るけど、にやっと笑顔を見せ小さく首を振るだけだった。
「康介! どういうことかって聞いてんだよ」
え……?
修斗さん、そんな怖い顔しないで……
なんで修斗さんが怒っているのかわからず、どうしたらよいのか気持ちが焦る。
「あ……あの、俺夢中で……竜の家庭教師が修斗さんの相手だと思ったから……だから俺、俺の大切な人……返してくれって……取らないでくれって、どうしても言いたくて。無我夢中で……ほんと、俺夢中で……余計なことしてごめんなさい」
「………… 」
消え入りそうな声で康介がしどろもどろに修斗さんに弁解する。そしてテーブルに額を付けるほど、申し訳なさそうに頭を下げた。
僕はひやひやしながら周さんと修斗さんを交互に見る。周さんは相変わらず関係ないって顔してるし、修斗さんは怒ってるのか顔が赤くなっている。
「修斗さん……」
そんなに怒ることなのかな?
康介だってまた萎縮しちゃって頭を上げられないでいる。
「碧ちゃんがいる家庭教師のある日に、康介はわざわざ竜太君の家に行ったの? わざわざ?」
「………… 」
修斗さんの問い掛けに康介は黙ったまま小さく頷いた。
しばらく黙って聞いていた周さんが修斗さんの肩をポンと叩く。
「……だそうだ。よかったな」
周さんがそう言った途端に、真っ赤に頬を染めた修斗さんの目から大粒の涙がポロっと溢れた。
…??
えーー! なんなの?
修斗さん、怒ってたんじゃないの? わかりにくいよ!
「康介……かっこいいじゃん。俺、嬉しい。ありがと」
凄く優しい笑顔に戻った修斗さんが康介を見つめる。康介もそんな修斗さんを見てめそめそと泣き始めた。
「………… 」
周さんはまた我関せず。僕はどうしたらいいのか……
もう、ほんと今日は疲れた。
結局僕はケーキを二つご馳走になり、康介はバイトがあるからと言って一人帰って行った。
「竜太君、康介のこともありがとうね。みっともないところ見せちゃった。俺ね……今回のことで康介のこと凄え好きだって再認識した。これからも末長くよろしくな」
はにかんだ笑顔の修斗さん。
うん……
修斗さんはいつも笑ってなくちゃ。
「今度康介のこと泣かせたら僕が許しませんからね!」
あんな康介はもう見たくないから……修斗さんだってそうだ。大切に思う人が傷ついて泣いているのなんか、もう見たくない。
周さんも「面倒ごとは二度とごめんだ」と言って笑った。
ファミレスを出て三人で歩く。
「この後スタジオ練習あるんだけど、どうする? 竜太も来る?」
周さんが僕の方を振り向き聞いてきたので首を振った。
明日はお休み──
母さんには周さんの家で夕飯を作ってあげるんだって話してある。そしたら嬉しそうに、材料費の足しに……と言ってお小遣いもくれた。火の元だけは気をつけてと注意をされたけど、それでも快くオッケーしてくれたから嬉しかった。
もちろん、泊まっていく予定。
周さんにはこの事は話してないからどんな顔するかな?
びっくりさせたい気もするけど、僕が夕飯を作ってるなんて知らないで、練習終わりにご飯食べてきちゃっても困るから、僕はこの計画を周さんに正直に話すことにした。
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