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新婚さんみたい

「あ……あのね、周さん。僕、これから買い物して帰ります。周さんの家でご飯作って待ってていいですか?」 周さんも修斗さんも一瞬キョトンとしたけど、すぐに周さんは僕の手を取り一緒に買い物に行くと言いだした。 「俺は竜太と帰るから!」 「は? 何言ってんの? お前はスタ練だろ! 靖史さん待ってんだから早く行くぞ」 周さんは名残惜しそうに振り返り振り返り、時折修斗さんに小突かれながらスタジオ練習へ向かった。 「さてっと……僕も」 僕はバッグの中に手を入れる。バッグの奥にある鍵にそっと触れて軽く掴み、そのシルエットをなぞるように指で触りまた元に戻した。 この前、周さんから貰った合鍵── そして左手の指には周さんから貰った指輪。嬉しくて、ついついにやけてしまう。 周さんの家に行き、ご飯を作って帰りを待つんだ。男同士だけど、新婚さんって感じがするでしょ? そんな風に考えてしまうのってやっぱり変かな? 今までは自分が好きな時に好きなことをやって、一人で過ごしている方が楽しかったけど、今は全然違う。 周さんが喜ぶ顔を見たいし、褒めてもらいたい。笑ってもらいたいし一緒に何かを楽しみたい。 いつでも一緒にいたいんだ。 料理だって得意ではないけど、それでも周さんが喜んでくれるから頑張りたいって思うし、もっと上手になって美味しいっていっぱい言われたい。僕にできることは何でもしてあげたいって思うんだ。 ………。 「竜太君!」 背後から突然両肩をトンッと掴まれ驚いて振り返ると、笑顔の志音が立っていた。 「さっきから呼んでるのに全然気がつかないんだもん。どうしたの? こんな時間から買い物?」 スーパーの入り口で、珍しい人に会ったと志音が笑う。 ぼんやりと周さんの事を考えていたもんだから、突然すぎる志音の登場にまだドキドキしていた。 家の手伝いかと聞かれたので、ちょっと照れくさかったけど周さんに夕飯を作るんだと説明する。志音は買い物を終えたのか、片手にビニールをぶら下げていた。 「志音はあの、いつも先生……あ、恋人のためにご飯作ったりしてるの?」 先生も志音もひとり暮らしだ。もしかしたら僕が知らないだけで、もう二人で暮らしたりしてるのかな? ちょっと羨ましく思いながら僕は聞いてみた。 「俺が早い時は俺が作るし、もちろん外食もするよ? 陸也さんの方が料理上手いから本当は作ってもらいたいんだけどね、俺が作るのが食いたいんだって」 「………… 」 「それに陸也さん、俺の部屋の方がいいんだってさ。しょっ中来るんだよ……ベッドがね、俺んちの方がデカいから」 小声でそう言うと、クスッと笑う。 「ベッド……!」 「そう、ベッド」 思わず大きな声を上げてしまい恥ずかしくなってしまった。 「も……もう! 志音のエッチ」 周さんのベッドは僕の部屋のベッドと同じで普通のシングルベッド。 背の高い周さん一人でもうめいいっぱいだけど、一緒に寝る時はぎゅっと腕枕して抱きしめてくれるから窮屈でも幸せなんだ。 ……まぁ、正直言って熟睡は出来ないけどね。きっと周さんもそうだと思う。 「僕は別にベッドは小さくてもいいや……」 小さくそう言ったのが聞こえてしまったらしく「竜太君の方がエッチ」と笑われてしまった。 買い物に付き合ってあげると言う志音と別れ、一人でスーパーに入る。だって、ベテランそうな志音に見られて買い物なんて恥ずかしいじゃん。 僕はカゴをカートに乗せて、迷いながらもなんとか買い物を終わらせた。

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