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帰宅を待つ
買い物袋を両手に提げ、周さんのアパートへ向かう。
ちょっと買いすぎちゃったかな?
だって何があるかわからないんだもん。調味料なんかはあるだろうけど、きらしていたら困るし、周さんのことだから冷蔵庫が空っぽなんてこともあり得る。
指がちぎれそうなくらい重たい袋をぶら下げて、何とか頑張って周さんのアパートまで歩いた。
ドキドキしながら合鍵を使って中へ入ると、目の前の光景に驚いて思わず買い物袋を足下に落としてしまった。
「……なんで?」
この前来た時は綺麗に片付いていたのに、今僕の目の前に見えるのは脱ぎ散らかした洋服やコンビニ袋に入ったゴミ、飲みかけのペットボトルがあちらこちらに散乱している、とにかく散らかり放題な部屋。
「………… 」
靴を脱ぎ、ゴミを踏まないように慎重に部屋を進んだ。
「びっくりだよ……全く。こんなにしちゃって……あぁ、洗濯物も溜まってる……」
驚いたけど、でもなんだか周さんらしくて怒る気にはなれなかった。
だって僕が来るってわかってるときは、ちゃんと綺麗に掃除するわけでしょ? それを想像したらやっぱり可愛いくて、愛おしいなって思う。
「まずは洗濯物……かな」
ベッドの上と下に散乱している、周さんの脱ぎ散らかした服や下着を集めて洗濯機に放る。
横の棚から洗剤を見つけ、洗濯機スタート。そのまま今度は部屋の片付けに取り掛かる。ゴミ袋にゴミを突っ込みながら、先ほどのスーパーの買い物袋を台所へ移動した。
……僕もやればできるじゃん。
なかなかの手際の良さに自分でも感心しながら、洗濯と掃除、料理の準備を同時進行させた。
今日作るのは麻婆豆腐。
周さんはお豆腐も好きなんだって。そして辛いのも結構好きだから麻婆豆腐に挑戦することにした。
実は家でも一回作った。これは調味料さえ揃っていれば案外簡単。今日もなかなか上手にできたと思うよ。
麻婆豆腐にサラダ。春雨のスープも作った。ご飯も忘れずに炊いたし、洗濯物もさっき窓際に干したし、部屋も綺麗に片付いてる。
僕は一人大満足して周さんの帰りを待った。
周さんを待ちながら、疲れてしまったのか僕はそのままテーブルに突っ伏して寝てしまった。
どのくらい経ったのか、玄関のチャイムがしつこく鳴っているのに気がつき慌ててドアを開けると、心配そうな顔をした周さんがそこに立っていた。
「……なかなか出てこねえから、いないのかと思った」
玄関に入ってくるなりギュッと抱きしめられ、半分寝ぼけていた僕は状況を掴むまでしばらくかかり、周さんにされるがままぼんやりと顔を見る。
「あ……あれ? なんで周さん、鍵は? わざわざチャイム鳴らして、鍵なかったんですか?」
そうだよ、ここは周さんの家。
僕がいるのわかってるし、そういえばそもそも僕は戸締りなんかしていない。鍵がなくったって開けて入ってこれるのに。
「いや、あるよ? だって竜太にお帰りって迎えてもらいてえじゃんか」
「あ……ごめんなさい。僕、ちょっと寝ちゃってて、周さんにちゃんとお帰りなさいって言えなかったですね」
言われて初めて気が付いた。僕ったら寝ぼけちゃって……
居眠りなんてしてなければ、ちゃんと「お帰りなさい」って言えたのにな。
「ごめんね周さん、お帰りなさい」
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