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周さんの望むような「おかえりなさい」が言えなくてがっかりしていると、僕の頭をポンポンと優しく叩いた。 「いや、いい……竜太のエプロン姿にちょっと感動してるから」 そう言った周さんは僕のことをジロジロと見ながら、両手で僕の腰の周りをさわさわと撫で回した。 「あ、このエプロン、これ家で使ってるやつなんです。料理するから持ってきました……てか周さん、他に言うことないんですか?」 僕のエプロン姿が新鮮だの可愛いだの、いい匂いがする腹減っただの、少し興奮状態な周さんが僕の頭上にキスを落とすのを軽くかわしながら聞いてみた。 全く……あの部屋の状態を覚えてないのかな? 僕の言ったことがよくわからなかったのか、周さんは怪訝な顔をして首を傾げる。 「なんだ? 他に言うこと?」 やっぱりわからないのか、キョトンとする周さんに僕は玄関先に置いておいたゴミ袋と窓際の洗濯物を指差した。 「あれ……! よく見てください」 「あー! そうだ、部屋、綺麗になってる!」 やっとわかったのか驚いて大きな声を出し、周さんは突然僕を抱え上げて、ずんずんと部屋へ進んだ。 「ちょっと! えっ? 周さん? 下ろしてください!」 ドスンとソファに下された僕の隣に勢いよく座り、そのまま覆いかぶさってきた周さんにキスをされた。 「んっ……あっ……周さん……待って」 周さんの行動が読めなくて僕はちょっと混乱する。さっきから何か興奮状態の周さんの両頬にそっと触れて、僕からも軽くキスをした。 「ちょっと……落ち着いてください。周さん? 何か今日変……どうしたんですか?」 目の前に、潤んだ瞳でじっと僕のことを見つめる周さんがいる。 なんだか子どもみたいで今日の周さんは可愛いな。 「変? いや、なんか帰ったら竜太が俺ん家にいてさ、エプロンして夕飯作ってくれててさ、おまけに部屋まで綺麗にしてくれてて……まるであれだ……ん? あれ……嫁!」 は? 嫁?? 「なんでお嫁さん? 僕は男ですよ。うん……でも新婚さんってこんな感じなのかなって僕も思いました」 二人で見つめ合いながらくすくすと笑う。 周さんも同じような事、考えてたんだと思ったらちょっとおかしい。 「なぁ、あれやってくんねえの? ほら……ご飯にします? お風呂にします?……それとも私?ってやつ」 「……?」 「なぁ……」 「いや。しませんよ」 そんなやり取りをしてる最中でも、周さんはもう僕のシャツに手を入れてきて、体を弄る。 周さんの息が耳にかかって、段々変な気分になってきた。 「なぁ、竜太食いたい……ね? いいだろ?」 「んっ……僕は食べ物じゃ……ありません」 せっかく作った麻婆豆腐を早く食べてもらいたいんだけど、でもこんな風に求められてしまうとやっぱり僕だってムラムラしてしまうからどうでもよくなってしまう。好きな人に求められて嬉しくないなんて人、いないよね。 「………食わせろ」 「食べ物……じゃないけど、うん……優しく……食べて」 僕は耳朶に甘噛みしてくる周さんの頭を撫でながら、キスを強請った。

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