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生活の一部
ダイニングテーブルで周さんと向かい合って座る。
温め直した麻婆豆腐と春雨のスープを、真面目な顔をして交互に口に入れる周さんをドキドキしながら僕は見る。
「……あの、どうですか? 麻婆豆腐は辛すぎないかな。大丈夫かな……」
周さんの事だから、僕が作ったものに対して不味いなんて言わないだろうけど、だからこそちょっとした表情の変化に気付けるように、僕は周さんの顔をジッと見つめた。
「ほんと竜太は……」
「……?」
カチャリとスプーンを皿に起き、顔を上げた周さんに見つめられ、緊張が増す。
「凄え美味い! なんだよ、プロかよ! これほんと美味いな、俺感動した!」
満面の笑みを浮かべ、はしゃぐように喜んでくれて僕は一気に緊張が解けた。
「またケーキの時みたいに練習したのか? 火傷とかしてねえか? 手、見せてみろ」
テーブルの上で手を捕まえられ、ジロジロと周さんに見られてしまう。
「大丈夫ですよ。練習って言っても家で母さんに教わって一度作っただけですから」
心配する周さんにそう伝えると、また大袈裟なくらい驚いた声を上げた。
「なんかね、僕料理が好きみたいです。よく家でも母さんの手伝いするからもう慣れました。だから火傷とか怪我とかももう大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
こんなに喜んでくれて驚いてくれてる周さんが可愛くて、なんだかお母さんになった気分だ。
いや、お嫁さん……だな。
そう思ったら可笑しくてちょっと笑ってしまった。
多めに作ってしまったけど、周さんはいっぱいおかわりをしてくれて綺麗に完食してくれた。ここまで食べてくれたら作った甲斐があるってものだ。
本当に嬉しい──
周さんが卒業して、僕もその一年後には高校を卒業する。その頃にはどういう風になっているかはわからないけど、こうやって二人で笑いあっていられるといいな。
僕も周さんの生活の一部に、なくてはならない生活の一部になれてればいい。
「竜太は休んでろ。てか風呂先行っててもいいぞ。もちろん泊まってくんだろ?」
そう言って周さんは後片付けを率先してやってくれ、僕はお言葉に甘えてお風呂をいただく。ゆったりと一人湯船に浸かり、また今までのことを思い返しては幸せに浸った。
「周さん、お風呂ありがとうございます」
僕が部屋に戻るとすっかり綺麗に片付けられていて、周さんはテレビを見て寛いでいた。
「周さん?」
眠たそうに目を擦りぼんやりとする周さんにもう一度声を掛ける。
「腹いっぱいで眠くなってきた……」
ふふ、子どもみたい。
僕の姿をちらりと見た周さんが両手を広げるから、僕はその腕に抱かれに行った。僕の事をギュッとした後に、髪に指を絡めてすんすんしながら周さんは甘えたように顔を埋める。
「風呂面倒くせえ……竜太、頭洗って」
全くしょうがないなぁ、と思いながらもこんな甘えん坊な周さんが可愛くて可愛くてどうしても顔が綻ぶ。
いつも僕の事を可愛いって言うけど、絶対周さんの方が可愛いよね。それでもこんな姿は僕の前でだけなんだと思うと特別な気持ちになった。
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