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僕が特別

周さんの髪の毛は少し長い。 金髪に近い髪色で、とても綺麗だ。 普段はセットされているけど、こうやってお湯に濡れるとペタンとなってちょっとだけ幼く見える。 「どこか痒いところはございませんか?」 周さんの背後から、美容師さんみたいに声を掛けると「ん……」とだけ小さな返事。鏡越しに様子を見ると、目を瞑って気持ちよさそう。 ……って、寝ちゃってないかな? 「周さーん? 寝ちゃダメですよ?」 シャワーで頭のシャンプーを流しながら声を掛けると「寝るわけないだろ……」と言って振り返り、僕に抱きつく。 「あ! ちょっと? 濡れちゃう……」 「なんで竜太自分のTシャツ着てんだよ。風呂入るんだから脱げばいいのに。それにいつも俺んち来ると俺の服着るだろ?」 なんだか不満そうな周さんに文句を言われてしまった。 「僕は周さんの髪の毛洗うだけだから脱がなくてもいいでしょ。それに僕がいつも借りる服、さっき洗濯しちゃったからないんです」 だって周さんが洗濯物を溜めてたから着るのがなかったんだもん。それに急に抱きつくから、このTシャツも濡れちゃった。 頭を洗い終えてタオルでごしごしと拭いてあげる。乾かすのだって、ちゃんとやらないでポタポタさせるからいつも僕が乾かしてあげてるんだ。自然乾燥だって周さんは言うけど、それにしたって限度があるでしょ? 一通り終えた後、周さんが思い出したかのように話し出した。 「そうだよ、いつも竜太が着てる俺のスウェット……ないと思ったらこないだ修斗が泊まった時に貸したんだった。洗濯忘れててごめんな」 僕が干した洗濯物の中からスウェットを指差して笑うけど、なんだかちょっと複雑だった。 僕が知らない時に修斗さん泊まったんだ…… 別に周さんとは幼馴染だって聞いてるし、学校でもいつも二人は一緒だもん。僕と康介みたいに親友同士なんだもんね。 ……何もやましい事はないんだ。 やましい事はないのは周さんを見てればわかるんだけど、わかるんだけど何でこんなに嫌な気持ちになるんだろう。 「ん? 竜太どうした?……ほら、Tシャツ濡れてんだろ? 脱がなきゃ風邪ひくぞ」 僕がいつも着る周さんの服…… 周さんの服…… 「だって着るものがないんです! 周さんが修斗さんに貸しちゃったから、僕の着るのがないんです!」 「………… 」 あ、わかった。 周さんの服を修斗さんが着たことが嫌なんだ。 思わずイラッとして嫌な言い方をしてしまった。 最悪…… こんな事くらいでイライラするなんて、かっこ悪い。恐る恐る周さんの顔を見ると、困った顔をして僕を見ていた。 「あ……あの、ごめんなさい。そんなつもりじゃ……僕、や……やきもちです。ごめんなさい」 こんな事くらいで困らせちゃってごめんなさい。 でも、周さんの匂いのする、周さんのぬくもりを感じられる服に身を包む。それが出来るのは僕が周さんの特別だからだ…… そう思っていたから、だからその服を他の人も僕と同じに着ていたっていうのが嫌だったんだ。 「やきもちってお前……可愛いな。竜太、ごめんな。嫌だった?」

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