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思いがけない訪問者

周さんの家に僕と康介、修斗さん── この家の主、周さんはというとまだ学校だ。 「周は卒業できるのかね」 修斗さんが縁起でもないことを呟きながら冷蔵庫を開け、コーラを取り出し康介にポンと投げる。すぐさまそのコーラを開けようとする康介を、噴き出しちゃうからと慌てて阻止し、僕は修斗さんをちょっと睨んだ。 「大丈夫です! 縁起でもないこと言わないでください!」 今日は卒業旅行の計画を立てようと周さんの家に集まるはずが、当の周さんが居残り授業……合鍵で入って先にやってて、と周さんに言われ、僕らは周さん抜きの三人でここで集まっている。 「出席日数も危ないって少し前言ってなかったっけ?」 「………… 」 康介まで嫌なことを言う。 「大丈夫ですよ。ちゃんと補習授業受けてるし、もうサボってないですもん。あ……修斗さん何飲みます? 僕は紅茶でもいれようかと思って……」 周さんの台所を借りてお湯を沸かす。確かまだ棚に紅茶が残ってたはず、と思い棚の上に手を伸ばす。そんな僕を見て修斗さんがクスッと笑った。 「竜太君、すっかり自分の家みたいだね。早く同棲しちゃえばいいのに」 「……! しませんよっ……まだ」 真面目だね、と二人に笑われていると玄関のチャイムが鳴った。 「なんだよ周。てめえで開けてさっさと入ってくりゃいいのに。鍵あるんだろ? てか帰ってくんの早くね?」 修斗さんがぶつぶつ言いながら玄関を開けると、そこにいたのは周さんではなくて謙誠さんだった。びっくりして三人で固まってしまう。 「はぁーい! 抜きうち! ……おっ、久しぶりだね。君は修斗君だよね? パーティの時はありがとうな」 ご機嫌で修斗さんの肩をぽんぽんと叩きながらずかずかと部屋に入ってくる謙誠さんに、僕らは只々呆気にとられる。 「竜太君もいたんだね。あれ? そこの君は初めましてだ! 僕は謙誠な。周君の父ちゃんだ。よろしくな!」 康介を見るなりそう言うと、ズバッと手を出し康介と握手。ぽかんと口を開けた康介は謙誠さんにされるがまま、ぶんぶんと握手をしていた。 「ん? あれ?……周君はどうした?」 きょろきょろと様子を伺い、周さんがいないことに気がつくと僕の方を見てそう聞いた。 「あ……あの、学校なんです。補習授業受けてて。あ、ごめんなさい勝手に僕らお邪魔しちゃってて。周さんに先に行ってろって言われて……」 自分の家でもないくせに図々しいな、と思って慌てて謙誠さんに説明をする。 「そっか! 卒業できないと大変だもんな。別にいいよ。竜太君、この家の鍵持ってんだろ? 周君一人だと心配だけど竜太君いるなら安心なんだよ。僕も雅ちゃんも」 ケラケラと笑いながらそう言ってくれて、ちょっとホッとする。僕がこの部屋の合鍵を持ってるのも謙誠さんと雅さんにはわかってるんだ。その上で僕を頼りにしてくれてるとわかってちょっと嬉しかった。 「ほら、僕には話してくれないけど……周君もう恋人いるみたいだしさ。あんまりね、ほらまだ高校生だし……」 「………… 」 ちょっと複雑。 きっとその「恋人」というのは女の子で、まさか僕だとは夢にも思ってないんだろうな。 「お? 旅行行くの? なに? あ、わかった! 卒業旅行かぁ。いいなぁ。どこ行くの? 四人で行くの?」 ローテーブルに置かれた幾つかのパンフレットを手に取り、謙誠さんはどかっとソファに座ると隣に座っていた修斗さんの肩を組む。 ……この人はこういう人なんだきっと。 スキンシップ。 悪気はないんだよね。 「周と竜太君、俺とそこの康介と四人で計画してるんだけど……どこにしようか今日決めようと思って」 修斗さんは肩を抱かれても平然とそのまま謙誠さんに説明をした。目の前の康介はというと、何か言いたげな顔でオロオロ僕を見るだけ。 「そっかぁ……あ! ここ! この近辺なら僕が宿手配できるよ? 格安で泊まれる。いつ頃いくの? 春休み?」 「あ……はい」 「今からじゃ宿取るの大変じゃない? じゃあ尚更僕が手配しておくよ。それに高校生だ。知った所の方が親御さんも安心だろう。ホテルのオーナーが僕の親しい知り合いなんだよね。だから逆に悪さもできないからね。うん、ここにしなさい」 そう言って悪戯っぽく笑う謙誠さんはどこかに電話をかけた。

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