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卒業と進路
謙誠さんが電話をかけてる間に、周さんが帰ってきた。
「あ?……なんで謙誠さんがいるんだ?」
ベランダに向かって電話をしている謙誠さんの後ろ姿を眺めながら眉間に皺を寄せる周さん。
「なんかね、突然きたの……抜きうちだって言ってましたよ」
コソッと僕が説明すると「油断ならねえな」と口を尖らす。そして康介がコーラを飲んでいるのに気がつき、勝手に飲むなと周さんが文句を言って、ちょっとした小競り合いが始まった。あれ修斗さんが康介に渡してたんだよね。修斗さんがいじけている康介を宥めていると、電話を終えた謙誠さんがいつの間にか隣に座っていた。
「周君おかえり。ごめんな突然来て……学校は大丈夫なのか?」
「大丈夫だし。それより何しに来たんだよ。来るときは連絡して欲しいんですけど」
不愉快そうにそう言ってる周さんだけど、ちょっとだけ嬉しそうにも見えた。
「ま、そんなことよりどうすんだ? どこ行くか決まった?」
周さんがテーブルのパンフレットを手に取りパラパラと眺める。
「ああ、それなんだけど……君たちはここな。ここに決めたから」
横からすかさず謙誠さんがパンフレットを手に取り周さんに手渡した。
「は? なんで謙誠さんが決めてんの? 関係ないじゃん」
渡されたパンフレットをぽいっとテーブルに戻すので、今の時期なかなか宿が取りにくいのと、知った人の目がある方が僕らも悪さしないだろうという謙誠さんの意見を僕が簡単に説明をする。修斗さんも康介も、格安でいい部屋に泊まれると聞き二つ返事で了承した。
「別に僕もついて行くわけじゃないし、いいでしょ? ね? ちゃんと部屋取れたし、僕の知り合いも君達が来るのを楽しみにしてくれてるから」
「なんだよ、俺の意見聞く前にもう決まってんじゃん……」
自分がいない間に、行く地域や宿泊場所を決められていたことに不機嫌になる周さん。康介から取り上げたコーラをグイッと一気に飲み干した。
にこにこして周さんに話す謙誠さんは、ちょっと強引だけど嬉しそうなお父さんの顔をしている。僕はこういう人、嫌いじゃない。
ぎこちないけど少しずつ周さんも打ち解けてきてるのがわかるから僕も嬉しかった。
「ところで周君は進路は決まってるの? 詳しく聞いてないんだけど……修斗君は? 進学するの?」
突然謙誠さんが周さんたちに卒業後の話を聞き始める。
正直僕は周さんから卒業したらどうするのか、ちゃんと聞かされていなかった。今と変わらないなんて言ってるけど……修斗さんは就職するって康介から簡単に聞いていた。
本当のところ、周さんはどうするのだろう。
「俺は進学じゃないですよ。就職します。アパレル決まりました」
修斗さんが謙誠さんにそう言うと、周さんも康介も驚いて振り返った。
「え? 決まったの? 俺まだ聞いてないよ。どこ? どこなんですか? 勤務先、遠くないよね? ね?」
凄く心配そうに康介が聞く。なんか泣きそうになってるし……そうだよね、遠くに行っちゃったら寂しいよね。
「なんだよ康介。まずはおめでとうだろ? 俺、就職決まったんだよ? 褒めてよ」
修斗さんが笑うと慌てて康介が「就職おめでとうございます」と言って笑顔を見せた。
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