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友達と恋人の間

僕の所属している美術部も既に三年生が引退している。 四人いた三年生が居なくなり、僕らニ年生が三人、一年生も三人、それぞれ一人はあまり部活に顔を出さないような人だから、ちょっと寂しい部活になった。おまけに人数的なものもあり僕が副部長……部長になった古田君はしっかりしてるからよかったけど、来年度から忙しくなりそうでちょっと嫌だな。 今日も一年生ニ人と僕らの四人で部活を終えて後片付けをしている。古田君は塾の時間があるからと先に帰っていった。 「そういえば最近直樹君見かけないよね? いつも放課後になると周りうろちょろしてたのに」 僕は一年生の入江君に声をかける。直樹君と言うのはこの学校の生徒ではないけど、入江君の事が大好きで殆ど毎日のようにこのくらいの時間になると顔を出すんだ。 「あ、なんか押してダメなら引いてみな作戦だって言ってました。だからここ何日か顔見てないですね」 相変わらず面倒臭そうに、入江君がこちらを見ずに返事をした。 「……押してダメならって、そういうのって本人に言うもの?」 「いや、あいつよく心の声が漏れるんです。アホですよね……」 直樹君らしくて面白い。なんとなく康介と似たタイプの直樹君は、感情がとてもわかりやすい。人懐こい性格だから誰とでもすぐに仲良くなれる。それに比べてここにいる入江君はいつも機嫌が悪いのかな? と思われてしまうくらい感情が読めない、難しいタイプの人間だ。それでも仲良くなった僕らにはかなり打ち解けてくれてるように思う。 「はは……でもいつもいる人がいないとちょっと寂しいんじゃない?」 「いやそれはないですね」 即答…… 「相変わらずつれないね」 ニ人のやりとりを見ていると、本当に直樹君を応援したくなってくるくらい入江君は素っ気ない態度。それでも嫌がっているわけじゃないから、見ていて不快ではなかった。 「先輩達見ていて、偏見とかそういうの無くなりましたし、別に誰を好きになっても構わないって思うようにはなりましたよね。実際自分にそういう好意を向けられたら、ちゃんと考えなきゃダメじゃないですか……それが大事な友達だったら尚更」 入江君は真面目にそう答える。 「わからないんです。俺、直樹の事好きですよ? 大切だし一緒にいて楽しいし、触れ合いたいって思うし……でも直樹の言うイヤらしい気持ちにはならないです。しょっちゅう「チューしよう」とか言われて、直樹も冗談で言ってて楽しんでるようにしか見えないんですよ。手ぇ繋いでニヤつかれてもイラッとするだけだし。それに俺、恋人同士っていうのがよくわからないし……」 友達じゃダメなのかと僕に聞く入江君を見て、すごく真面目なんだろうなと思った。でもとりあえず、それは僕じゃなくて直樹君に聞くことだよね。 「でも直樹の事嫌いなわけじゃないから……あいつが嬉しそうにしてるの見るのは好きなんです」 そう言った入江君の表情がとても柔らかくなったのを見て、僕はホッとする。 体育祭の後、周さんとデートした入江君。周さんに直樹君が喜んでくれると嬉しいからと言って、どんなデートをしてあげたらいいかなんて聞いていたのを僕は周さんから聞いていた。恋愛感情かどうかはわからないけど、入江君にとっても直樹君は大切な人なんだと見ていてわかる。 あ、そうだ! 「ねえ、今度周さんたちライブやるんだよね。入江君も直樹君と一緒においでよ。高校最後のライブなんだよ。僕らも行くから一緒に楽しもう」 僕は周さん達のライブの予定を思い出し、そう提案してみる。入江君から誘われたら直樹君すごく嬉しいと思うから。 「うん、あいつ橘先輩好きだから喜ぶと思う。ありがとうございます」 そんな話をしていたら、奥の準備室から慌てた様子で工藤君が飛び出してきた。工藤君も入江君と同じ一年生。 「ちょっと!? 聞こえたぞ! ライブ! ずりいよ! 俺も誘って下さいって! 祐飛と一緒に俺も行くよ。な?」 そうだった…… 工藤君、周さん達の大ファンだった。 「高校生活最後なんて尚更! 俺行かなきゃ! ね? 先輩、俺も連れてって!」 ……しょうがないか。 でもみんなで行っても楽しいよね。

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