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変化
久しぶりの周さんたちのライブ──
僕は康介とニ人でライブハウスに向かっている。途中で入江君達と合流して一緒に行くんだ。工藤君も来るのは想定外だったけど、まあしょうがないよね。直樹君は入江君から誘われたのがすごく嬉しかったみたいで、昨日の夜に電話があって何度もお礼を言われてしまった。
今日のライブは周さんと修斗さんは高校生としては最後のライブになる。圭さんがいなくなって何回目のライブかな? あちこち走り回ってお客を煽る圭さんがいないのは何だかちょっと寂しくて、それでも周さんがギターを弾きながら歌うこの三人でのD-ASCHもまた違った雰囲気で僕は大好き。そして圭さんを知らないファンもかなり増えた。
「竜太君! やっほー! 竜太君おーい!」
約束した場所に近づくと、元気のよい直樹君の声が飛んでくる。その一歩後ろには入江君。工藤君も一緒だ。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
僕も康介も少し足を早めて、いつまでも大きな声で僕を呼ぶ直樹君の方へ急いだ。
「お前いっつも元気だな。うるせえよ……でっかい声で恥ずかしい奴」
康介が呆れたように直樹君にそう言うと、直樹君は「だって嬉しいんだもん」と呟き、へへっと笑った。
「……どうも」
賑やかな直樹君とは対照的に入江君が小さく僕らに会釈する。
「また祐飛は祐飛でつまんなそうだな」
康介がそんなニ人を見比べてゲラゲラと笑った。
「あ、何それお前、祐飛とおそろじゃん」
「あ! わかっちゃいました? へへ……見て見て。祐飛とお揃い! 周さんがね、前にくれたの。いいでしょ」
得意げに自分の腕を高く掲げてリストバンドを見せてくれた。入江君の手首にも同じのがついている。
周さん、いつの間にあげたんだろう。それにしても直樹君、嬉しそう。
「そうだそれ! 試しに作ったやつだって修斗さん言ってた。いいなぁ、俺も欲しかったんだけど、修斗さんがそのデザインはダセエからって言って俺にはくれなかったんだよな……」
「は? ダサくねえし! 康介君ムカつく」
「俺が言ったんじゃねえよ? 修斗さんだかんな」
わいわいとうるさいニ人は置いといて、僕は入江君と工藤君と並んで歩く。工藤君もリストバンドを羨ましがって、余ってないのか? など僕にしつこく聞いてきた。僕だって周さんからは貰ってない。
……周さんは僕とお揃いのブレスレットの邪魔になるからと言ってリストバンドはくれなかったんだよね。工藤君にごめんねと謝り、僕らはお喋りしながらライブハウスに到着した。
「あ……陽介さん」
入ってすぐ、後ろの壁に寄りかかりぼんやりとしている陽介さんを見つける。
「おぅ、竜太君、久しぶり」
陽介さんとは髪の毛を切ってもらった時以来だ。あの後もニ度ほど周さん達のライブがあったけど陽介さんは来ていなかったから。
「なんだよ兄貴もくるんなら言ってくれれば一緒に来たのに」
「やだよ、お前らうるさいじゃん」
康介と陽介さんが小競り合いを始めるけど、一人暮らしを始めた陽介さんの事をちょっと心配していた康介は嬉しそうだった。
今日もお客さんが大勢集まっている。
対バンすることが多い兄さんバンドの人達も今日も一緒。来ているお客さんも顔馴染みの人が多くなった。陽介さんとお喋りしていると何人かの人に挨拶をされた。ライブの時しか会わないけどこうやって覚えててくれて挨拶をしてくれるのはなんだか嬉しい。
「圭ちゃんいなくなってさ、あいつら三人でやるようになって……新しい客もかなり増えたじゃん? ファンが増えたのは嬉しいけど……なんかちょっと寂しいな。周もカッコいいけどやっぱり俺は圭ちゃんが一番なんだよな」
僕の方を見ずに、まだ誰もいないステージを眺めながら陽介さんが喋ってる。圭さんが抜けてからも、こうやってちょくちょくライブに顔を出してくれる陽介さん。楽しそうにしてるけど、そうだよね……寂しいよね。
「圭さん、早く帰ってきてくれるといいですね」
こんな事しか言えないのがもどかしい。
僕は陽介さんの隣に立ち、一緒にステージを見つめた。
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