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ラブソング

「竜太君は前の方行かなくていいの?」 ステージに周さんたちが登場し、会場内がざわめき始める。康介や直樹君、工藤君は既に最前列に陣取っていた。 「いいんです。今日は陽介さんと一緒にいます。あ、僕もここにいていいですか?」 元々僕は康介みたいに動き回って楽しむよりもゆっくりと周さんを見ていたいのもあるし、少し寂しげな陽介さんのそばにいてあげたいな……なんて思ってしまったから。 でも陽介さんは一人でいたいと思っているかな、とも心配になりそう聞いた。 「うん、勿論いいよ。ならもっとこっちにおいで」 優しく手招きされ僕はホッとして陽介さんの隣に並ぶ。少しすると前の方から入江君もこちらに来た。 「あれ? どうしたの? 直樹君と一緒にいなくてもいいの?」 僕が聞くと不機嫌そうにこちらを見る。 「だって混み合ってて始まる前からいろんな奴がぶつかってくるし……直樹は康介君とばっか話してるから、なんかもういいやって思って」 「………… 」 ちょっとヤキモチにも聞こえる入江君の言い分に笑いそうになってしまった。 会場内の照明が落ち、一曲目が始まる。 一気に会場内が盛り上がり人集りが波打ち始める。右へ左へ走り回るようにしてお客を煽り歌うスタイルの圭さんとは違って、あまりその場から動かない周さんだけど、それでも周さんの一挙一動にファンのみんなはそれに応えるように飛び跳ね一緒に拳を振り上げる。そんな様子を僕は一歩下がった場所から見つめていた。 時折周さんと目が合う。僕を見つめ歌う周さんに体が熱くなる。頬が火照る。僕を見つめる視線に「愛してる」という言葉が重なる。 僕だけの特権…… きっと陽介さんも圭さんが歌っていた時はそんな風に見つめていたんだと思う。 隣に立つ陽介さんを見ると、楽しそうにリズムをとりながらステージを見ている。そんな様子を見て僕はほっとした。 寂しそうな顔の陽介さんを見るのは辛いから…… 数曲終わり、最後の曲になったらしく静かになる。 圭さんがよく歌っていたバラードのイントロが始まった。 この曲は周さんが歌うのは多分初めて。 「僕、この曲すごい好きなんです。なんかジーンとしちゃう……」 圭さんが歌っているのと周さんとだと、だいぶ雰囲気が違って聞こえた。 閉じ込めていた思いを解放して恋が成就する内容の歌詞。 康介も「コテコテのラブソングだけど、なんだか心に沁みるんだよな」なんて言っていた。 うん、わかる気がする。僕もこの歌大好きだから。 曲をやっている間は会話が聞こえないので陽介さんにちょっとだけ屈んでもらって耳元で声を張って話しかける。そんな僕の肩を陽介さんは抱き寄せた。 「歌いながら周が俺を睨んでるよ。ヤキモチ妬いてる。面白い」 慌てて前を見ると、不機嫌そうな周さんと目が合った。 「ちょっと! 揶揄わないでください!」 悪戯っぽく笑う陽介さんから、ちょっとだけ離れて周さんに小さく手を振る。途端に笑顔でウインクをされた。 「周はほんとわかりやすいよな!」 そんな周さんを見た陽介さんは、そう言って楽しそうに笑った。

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