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小さな恋の物語/直樹

完全に浮かれていた…… 竜太君経由で祐飛からライブに誘われ、大好きな周さんたちのライブだってこともあって完璧に俺は浮かれていた。 ライブハウスも初めてだし、祐飛とお揃いのリストバンドも着けて、嬉しくて勝手に一人で盛り上がってた。 康介君に言われるまま、客席の前の方へと進む。ずっと隣には祐飛もいたはずなんだけど、ライブが始まってからは姿が見えなくなっていた。 康介君と知らない人たちに囲まれて曲に合わせてジャンプする。楽しくてしょうがない。周さんや修斗さんも俺らの方を見ながら楽しそうに煽ってくるから、俺も夢中で歌って踊った。 何曲かテンポの良い曲を終え、今度は打って変わって静かな曲。 この曲は俺は知らない。 初めて聞くバラードに、胸がドキドキしてきた。 周さんの歌うこの曲は、祐飛に片想いをしている俺にとってはどうにも切ない気持ちが湧き上がってきてしまい泣きそうになる。 この時初めて俺は祐飛の事が気になり周りを探した。キョロキョロと周りを見回し目に飛び込んできたのは、後ろの方で竜太君が知らない人に肩を抱かれて密着している姿。 「………… 」 なんか見ちゃいけないものを見てしまった感じがして、慌てて康介君に話をするとびっくり、竜太君を抱いているのは康介君のお兄さんだと言われた。 ……なんだ。 そうだよね、ああやってくっつかないと話なんてできないもんな。 ちょっとドキドキしながら、また祐飛の姿を探すと竜太君達から少し離れた場所で一人で佇んでいるのを見つけた。 真っ直ぐ周さんの方を見つめてる。 照明が僅かにあたる祐飛の姿、瞳がキラキラしているのまでよく見える。 周さんの歌う切ない歌詞に自身の想いが重なって、気が付いたら俺は涙を流して祐飛を見ていた。 曲が終わり泣いている俺に気がついた康介君が慌てて涙を拭ってくれた。 「なんだよ、びっくりすんじゃん……大丈夫?」 ……ごめん。 優しくされるとダメだ。 涙がどんどん溢れてくる。 「おいおいおいおい! なんだよ、俺が泣かせたみたいになってんじゃん。ほら、ライブ終わったから……あぁもう! 祐飛はどこいった?」 康介君に優しくぽんぽんと肩を叩かれ、心配されると気が緩む。 周さんのあの歌に自分を重ねて、でもあの歌のように上手くはいかない。俺の恋は決して成就することはない…… そう思ったら悲劇のヒロインよろしく、悲しくてどうしようもなくなってしまった。 「や……ごめん俺、なんか切なくなっちゃって……ダメだぁ、周さんカッコいい…… ヤバい。あ! 祐飛はいいから……呼ばなくていい」 泣いてる姿だって見られたくなかったし、そもそもライブが終わったって、ほら……祐飛はこんな俺のところには来てくれないじゃん。きっと竜太君の側にいたからそっちと一緒にいるんだろう。 俺は康介君に肩を抱かれてライブハウスの外に出た。 周さん達はこれから打ち上げに行くらしく、俺らはライブハウスの外で待つ。もうすっかり涙も乾き、俺は竜太君と一緒にいる祐飛のところへ走った。

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