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小さな恋の物語/竜太から見た二人

ライブハウスは初めてだとはしゃいでいる直樹君を、康介が得意げに案内している。それを見て陽介さんは笑ってる。 「あいつら兄弟みたいだな」 ……確かに。 「直樹君って康介と似てますよね」 工藤君と直樹君を引き連れた康介がステージ前で楽しそうに笑ってる。でも直樹君の側にいた入江君が、すぐにつまらなさそうにこちらに来たのでちょっと心配になり直樹君の方を見た。 周さん達の大ファンだという工藤君も一緒だし、夢中になってるのもしょうがない。 それにしても、入江君がこんなにやきもちを妬いている感じが意外だった。ステージが始まってしまってからは僕も周さんに夢中で入江君の事を気にかけてあげられなかったけど、大丈夫だったかな? ライブが終わってから僕らは先に外に出て皆を待つ。入江君も僕の側にいたけど何だかつまらなさそうだった。 陽介さんもしばらくはいたけど、明日も早いからと言って帰ってしまい、康介と入江君、直樹君とお喋りをしながら周さん達を待った。 やっぱり…… さっきから直樹君が入江君に話しかけたりしてるけど、わざと顔を背けたり知らんぷりをしている。 周さん達が出てきて打ち上げの会場となる居酒屋に移動している間も、入江君は僕の側から離れることなく黙って歩く。 「ねえ、どうしたの? 入江君とケンカでもした?」 直樹君にコソッと聞いてみた。だってこんなになってる入江君見たことないし、ライブの間に何かあったのかな? って思ったから…… せっかく良かれと思って誘ったのに、このライブが原因で気まずくなってしまったのなら申し訳無さすぎる。 「……ん、わかんない。祐飛、酒呑んで酔っちゃってんの」 直樹君もよくわからないみたい。ていうか、お酒飲んじゃってたんだ。言われてみれば顔が少し赤いかも。 「入江君、いつの間にお酒なんか飲んじゃったの?……大丈夫? 直樹君も心配してるよ?」 今度は入江君にコソッと話した。 「大丈夫だし。別に直樹は俺の事なんか心配しなくたっていいのに」 やっぱり、やきもち妬いて拗ねてるだけなのかな? ちょっと気になったけど、あまり口出ししないで見守った方がいいのかな……なんて思いながら僕は歩いた。 打ち上げの会場はお馴染みの居酒屋。 ぞろぞろと入った順に奥から座っていくから、やっぱり周さんと離れてしまった。 「直樹君、ごめん……場所変わってもらっていい?」 周りが呑み始めてしまってからだと動きにくくなるから、周さんの隣に座る直樹君に今のうちに場所を変わってもらった。 「周さん、お疲れ様です。今日もかっこよかったです」 ぴたっと腰がくっつくほどに寄り添って座り、周さんに小声で話す。 周さんはそんな僕の腰をグッと抱き寄せるようにして、嬉しそうにこめかみの辺りにキスをしてくれた。 ……人前でちょっと恥ずかしい。 「竜太に見てもらいたくて歌ったから……でも陽介さんと仲良すぎ!」 「あ、ごめんなさい。でもあれ、陽介さん周さんのこと揶揄って遊んでたんですよ? あんなの気にしないでください」 不貞腐れてる顔がまた可愛くてしょうがない。 「じゃ、キスしてくれたら許してやる」 そう言って周さんは僕の方へ顔を寄せた。 「え? えっと……周さん?」 「早く! ほっぺでいいから」 グイッと更に顔を近づけてくる周さんに、しょうがないから軽く頬にキスをした。 「へへへ。ありがと」 すぐに機嫌が直った周さんは無邪気に笑う。そんな顔されたら文句も言えないや。 ふと視線を感じて正面を見たらニヤニヤしている靖史さんと目が合った。 うわ……凄い恥ずかしい。 「もう、他の人がいる場所は恥ずかしいからダメですって……」 僕はコソッと言ったのに、調子に乗った周さんにまたキスされてしまった。 もう! 恥ずかしいけど満更でもない僕もどうしようもないね。

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