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小さな恋の物語/祐飛の思い
兄さん達が乾杯の音頭を取り、各々グラスを掲げて乾杯をする。しばらくの間周さんや修斗さんとお喋りをしていたんだけど、いつの間にか隣に来ていた入江君に寄りかかられてしまい、慌てて支えた。
よく見るとさっきよりも顔が赤いし更にお酒臭い……
「ちょっと? お酒呑んだの?……ダメじゃん。入江君? 大丈夫?」
こちらを振り返り僕にしなだれ掛かるようにしてくるから、しょうがなしに僕も腕を回して入江君が倒れないように支えてあげた。
「なんで入江君って言うの? 渡瀬先輩も祐飛って名前で呼んでくださいよ」
「……? ひゃっ! ちょっと? 入江君くすぐったい!」
拗ねるような顔をして、僕の脇腹を指で突いてくる。
「だぁかぁら! 祐飛……です。祐飛」
「わかったわかった! 祐飛君、脇腹突っつくのやめて。くすぐったい……」
僕が名前で呼んであげると満足したのか嬉しそうにはにかんだ。
「おい! 入江てめぇ、何竜太にくっ付いてんだよ、もっと離れろ」
僕らの状態を見た周さんが、僕の腕に絡みついてる祐飛君を後ろからバシバシ叩く。
「痛えな! 橘先輩も祐飛って呼んでくださいよ!……てかさっき渡瀬先輩にチュッチュしてたくせにちょっとくらいいいじゃんか。俺は渡瀬先輩と話がしたいの! 橘先輩こそあっち行ってください!」
「………… 」
周さん、祐飛君の剣幕に唖然としちゃってる。僕もちょっとびっくりだけど、やっぱり結構酔っ払っちゃってるみたいだった。
僕は不機嫌そうな周さんに目配せをしてから、祐飛君に向き合った。
「僕に話って、なにかな?」
「渡瀬先輩は……あんな人前で恥ずかしくないんですか?」
真面目な顔してそんな風に言われるのが恥ずかしい。なんだか怒られてる気分になってしまった。
「う……ん。恥ずかしいよ。ごめんね。お見苦しいところお見せしました」
祐飛君に頭を下げてみせると、ちょっと慌てた様子で首を振った。
「いやすみません、責めてるわけじゃなくて……俺はああいうのは恥ずかしいし、あんまりおおっ広げだと逆に嘘くさく感じてしまうというか……何というか、あ……いや何でもないです。ごめんなさい」
急にもじもじしてしまった祐飛君に、気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、直樹君と喧嘩でもしたの? 直樹君、気にしてたよ? さっきから無視してるでしょ」
酔っ払って赤くなっている顔が更に赤くなった気がする。
「喧嘩じゃないです……直樹は悪くない。俺がダメなんです。直樹が他の奴と楽しそうにしてるのを見てなんかイラッとしちゃって…… 」
それは紛れもなく「焼きもち」だよね。
「それに周さんのあの最後の曲……それ聞いて直樹が泣いてて……泣いてるのは俺のせいで、でもどうしてやることも出来ないし。康介君みたいに直樹の肩抱いて慰めてやることも俺には出来ない」
「………… 」
「俺のこと、泣くほど好きなくせに……色んな事思って辛いくせに、いつもふざけたように俺に接する。そんな直樹にもイラッとするんです!…でも俺は直樹を責める資格なんてない……」
こんな感情的に話す祐飛君が珍しくて、直樹君がそばにいれば丸聞こえだと思い姿を探すも、直樹君はトイレにでも行っているのかこの場にいなくてがっかりする。
「俺はもう……どうしたらいいのかわからないよ。好きなんだけど……俺の`好き じゃ直樹は喜ばないんだ。俺じゃ笑顔にさせてあげられない」
僕は何て声をかけてあげたらいいのかわからない。
お互い強く思いあってるはずなのに、交わる事はないんだ。
「……う……ん、渡瀬先輩……俺、眠い……寝てもいい?」
喋るだけ喋って、祐飛君は僕の膝に頭を乗せ、睡魔に襲われたのか腰にしがみついて眠ってしまった。
「どうしたらいいんだろうね……」
僕はそんな祐飛君の頭をそっと撫でた。
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