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小さな恋の物語/祐飛の涙

周さんに言われて部屋に戻ると、座っている竜太君の股間に顔を埋めて腰にしがみついて寝ている祐飛の姿…… 「なっ?! ……祐飛! 何やってんの? ちょっと! あぁ……竜太君、ごめんなさい! 祐飛? おい! 起きろって……!」 思った以上にとんでもない事になっていて大いに焦る。人の気配に慌てて振り返ると、何とも複雑な表情をした周さんがその場で立ち尽くしていた。 ……あ、ダメだこれ。俺、死ぬ。ヤバいヤバい…… すぐに引き剥がさないと周さんがキレるのも時間の問題だ。 「祐飛! 起きて……」 「あ、直樹君。平気だよ? 僕は大丈夫だから……ちょっと飲みすぎちゃったみたいだね」 全く嫌がる様子もなく、優しく祐飛の頭を撫でている竜太君。 なんだよ天使かよ…… でも、急いで竜太君から祐飛を離さないと俺がヤバい。 「ほら、起きて。祐飛? こっちおいで……」 祐飛の脇に手を入れゆっくりと体を離す。眉間に皺を寄せ薄っすらと目が開いたと思った途端、祐飛は俺に抱きついてきた。 「直樹? どこ行ってたんだよ。俺の事放っておくなよ……」 え……? 何だこれ。 思いがけない祐飛の態度に俺は思考が追いつかない。 「てか! 待って? 酒くさっ! ……なんだよ祐飛、大丈夫か? ちゃんと起きろってば……帰るぞ? 立てる? おぉーい、祐飛君??」 何とか竜太君から祐飛を引き離す事ができたけど、今度は俺の方がヤバいかも…… 何でこんなに俺にしがみついてくるんだ? さっきまで怒っていたんじゃないのかな。何で怒っていたのかはこの際置いておいて、とにかく早くこの場から去ろうと祐飛を立たせる。 足元がふらつきながらも、祐飛は俺に掴まった状態で歩けそうだったので、周さんと竜太君に挨拶をして俺らは居酒屋をあとにした。 「……祐飛? どこか寄って酔い覚ましに冷たいもんでも飲んでく?」 居酒屋を出てすぐのところにコーヒーショップが見えたのでそう聞いたんだけど、祐飛は黙って首を振った。 「大丈夫……帰る」 俺の腕にしがみついたままで、ボソッと呟く祐飛に俺はドキドキが止まらなかった。 今までだってこうやってくっ付いてみたり手を繋いでみたりしたことはあるけど、どれも俺からのアクションで祐飛からのものじゃない。今日のこれは初めての事。たとえ酔っ払って通常運転じゃないにしろ、嬉しくて俺は舞い上がりそうだった。 帰りの電車は少しだけ混んでいて生憎座る場所がなかった。俺は祐飛をドア付近のバーに掴まらせ、目の前に立つ。電車が動くと同時にまたふらつき始めたので、ちょっと恥ずかしかったけど体を支えてやった。 「直樹……ごめんな」 突然目を潤ませて俺を見つめる祐飛。 何が「ごめん」なのかがわからずに混乱するも、きっと今のこの酔っ払い状態のことを詫びているのだと思い「いいよ別に」と軽く返事をした。 「………… 」 黙ったままの祐飛が俺を見つめる。電車の揺れに足を取られそうになる度に俺が祐飛の体を支えてやる。普段とちょっと違う祐飛と密着して、息が触れる程の距離にどうしようもなく胸が高鳴った。 「うっ……ごめん、俺……ごめん」 至近距離がどうにも落ち着かず、恥ずかしいな……と言おうと口を開きかけたと同時に、祐飛はぎゅっと俺の服を掴み「ごめん」と何度も呟きながら、涙を零して泣き出してしまった。

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