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小さな恋の物語/人目を憚らず

こんな電車の中で…… 隠すことなく俺を見つめたまま、祐飛の瞳からはポロポロと涙が落ちている。 「ちょっと、どうしたの? 何でそんなに謝るの?」 周りの目が気になったので、少し祐飛に顔を近づけ小声で聞いた。 「直樹が泣くの……俺のせいだろ?……俺、直樹に笑ってて欲しいのに……どうやったって辛い思い……させちまうから」 「………… 」 祐飛はそんなことを気にしていたのか? そんな風に思ってくれてたのか? でもやめてくれ……違うから。 祐飛は何も悪くない。 「いや、祐飛のせいなんかじゃないから……ほら、それに俺、泣いてなんかないよ? 見間違いじゃね? ……ライブの時のあれは違うから。隣のヤツの手が目に当たって痛かっただけ……だから。大丈夫……だから」 俺のせいで祐飛が苦しんでる。 俺が祐飛を好きになったばっかりに、泣かせてしまった。あんなにも優しくて強い祐飛が俺のせいで人目を憚らずに泣いている。 「ごめん……泣かないで祐飛。ね……ごめんね。俺の事はいいから……」 祐飛が酔っ払ってて、そのせいで俺への本音が見えたらいいな、なんて思った俺がバカだった。 祐飛はずっと辛かったんだ。 俺の事、ちゃんと考えてくれて、それでも俺の気持ちにこたえられないって苦しんでたんだ…… 苦しめてるのは俺の方なのに、それなのに俺の事を思って泣いている祐飛を見て、嬉しく思ってしまう自分にどうしようもなく腹が立つ。 泣いている祐飛の顔を他人に見られたくなくて、俺は祐飛を抱きしめた。俺の肩に顔を埋められるように祐飛の頭をそっと抱く。ここが電車の中なんてことはわかってる。男同士で抱き合ってるという恥ずかしさなんてどうでもよかった。 祐飛の泣き顔を見られたくないから…… 祐飛に俺の泣き顔を見られたくないから。 どうしようもなく溢れてくる涙を止めることができずに、心の中で俺は祐飛に謝り続けた。 降りる駅に近づくにつれ俺はすっかり涙も落ち着き、深呼吸をして祐飛に話しかける。 「大丈夫?……次、降りるよ」 祐飛は恥ずかしいのかどうなのか、俺の肩に顔を埋めたまま小さくうんと頷いた。 お酒のせいだ…… 俺に甘えてくれているように感じるのは、全てお酒のせいなんだと自分に言い聞かせ、平静を装う。 さっきは思わず感情が昂ぶってしまい、祐飛を抱きしめながら泣いてしまったけど今は冷静……途端に恥ずかしくなってしまい胸の鼓動が早まった。 周りの乗客がみんな俺の方を見ている気がする。相変わらず俺に顔を埋めたままの祐飛を抱きしめていた手をゆっくりと緩めていった。 電車が止まり、俺は黙ったままの祐飛の腕を取り電車を降りる。そのまま駅を出て祐飛の家の方向へと足を進めた。 「……ん? 何?」 俺のシャツの裾をグイっと引っ張る祐飛の方を見る。 「俺……帰りたくない」 俯いたままの祐飛がボソッと小さく呟いた。

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