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小さな恋の物語/無かったことにはできないから…
祐飛がシャワーを浴びに行っている間、俺は今日のことを考えていた。
お酒の影響とはいえ、あんな風にされると気持ちが揺らぐ……
小学校五年の頃に自分の気持ちに気がついて俺は祐飛を避けた。祐飛のことだから俺の気持ちを知ったら苦しむのはわかっていたから。
苦しませたくない、それに嫌われるのも怖い。だからあのまま近付き過ぎず遠すぎず……な関係で終わりたかった。
俺が馬鹿なばっかりに、中学の頃その関係を崩してしまった。祐飛はイジメにあってる俺を救ってくれた。俺はそれがきっかけで祐飛に思いを伝えてしまった。
俺を思って祐飛は泣いてくれたんだ。「気付いてやれなくてごめん」と言って。祐飛は何も悪くないのに。
その時、やっぱり祐飛を苦しめてしまったことを俺は悔やんだ。
俺の想いが伝わってしまった以上、もう祐飛を苦しめたくなかった。俺の事を気にしてほしくなくて、俺は敢えて軽く接することにした。冗談っぽく好きだと言っていればバカなやつだなって思って気持ちが少しは楽だろうと思ったんだ。
だって伝えてしまったこの気持ちはもう無かったことには出来ないから。
深刻な顔はしない。
祐飛の前ではいつも笑顔。
大好きなアイドルやアーティストを思うように、俺は周りも気にせず好きだとアピールしてきた。「また直樹のアホが好き好き言ってるよ」って俺と祐飛を知る友人なんかは笑ってた。
その方が祐飛は気が楽だと思ったから。
それなのに、そんなんじゃ祐飛は誤魔化せなかったんだな。
俺がふざけたように好きだとアピールしてきたこと、今までずっとしんどかったんだよな。
……俺はどうしたらいい?
あんな泣き顔もう見たくない。
「直樹、シャワーありがと」
「………… 」
部屋に戻った祐飛は、少し大きめの俺のTシャツを着て、下は下着のままだった。
やっぱりダメだ……
「……ごめん、祐飛。あの……さ、風呂上がりで暑いのはわかるんだけど……それ、何か下、履いてくんないかな」
単なる友達同士ならどうってことない姿でも、俺はそういう目で見てしまう。何ともないよと平静を装いたいけどもう俺には無理だった。
なるべく祐飛の姿を見ないように視線を逸らす。
「あ……悪い」
そう言った祐飛の姿が視界の片隅で動く。ズボンでも履いてくれるのかと思っていたのに、祐飛は床に座る俺の目の前にそのままの姿でしゃがみこんできた。
……?!
そしてどういうわけか、祐飛は俺に抱きついた。
「え……?」
逸らしていた目を祐飛に向けた瞬間、祐飛の手が俺の頭を触る。
ぐっと引き寄せられた俺は、ごく自然に祐飛と唇を重ねていた。
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