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小さな恋の物語/限りなく近い
驚いて体が固まる。
何で? え? キスされた?
唇が触れるだけの軽いキス。でも固く目を瞑る祐飛の唇は震えていた。驚いて肩を押しのけ顔を見ると、泣きそうな表情の祐飛と目が合った。
「俺には……直樹を喜ばせてあげられるの……こんなことしか思いつかないから。俺、汚ねえけど……色々……もう綺麗な体じゃ……ないけど…… 」
俺から目を逸らし、そうぶつぶつと呟きながら自らTシャツを捲り上げていく。
「………… 」
俺は知ってる──
あの時、俺をイジメから救ってくれた祐飛は、あの時から俺の身代わりになって酷い目にあわされてきたんだ。
俺と別々の高校に進んだ祐飛が心配で学校まで迎えに行った日、まるでキスマークを隠すように首筋に貼られた絆創膏。
俺をいじめていた奴らから祐飛はいいように男に抱かれてるなんて聞かされたけど俺は信じたくなかった。まさかそんなことはあり得ないと信じなかった。勿論そんなこと本人にも聞けなかった……
でも祐飛を救い出したあの日、俺は確信してしまった。
この怒りをどこに向けたらいいのかわからなかった。薄々感づいていたくせに俺は救ってやることができなかった。
俺のせいで……
俺のせいなのに。
祐飛は目に涙を溜めて小さく震えながら「好きにしていい」なんて俺に言う。
……違う。
こんなのちっとも嬉しくなんかない。
「何で? 何で無理すんの? ……嫌だろ! 男に抱かれんのなんて本当は嫌なんだろ?」
「……直樹ならいい。多分怖くない。俺は直樹の気持ちに……こたえたい」
「………… 」
俺は首を振り、祐飛の体を軽く抱きしめる。
「いい……その気持ちだけで俺は十分だから。無理しないで。こういうのは……祐飛がしたいと本心から思わないと……俺は嫌だ」
そう言うと、また祐飛の目から涙が溢れてしまった。
泣かせたいわけじゃないのに。ごめん……ごめんね。
「俺は……色んな奴に抱かれて、汚ねえから……ごめんな。嫌だよな……俺のこと好きでいてくれてたのに……こんなんでごめん……」
何でだよ! 違う!
「バカ! 祐飛は汚くなんかない……自分で言うな……俺のせいなんだから。俺こそごめん……祐飛ごめん。好きになって……ごめん…… 」
真っ赤になって泣く祐飛に、堪らなくなった俺まで涙が出てくる。祐飛の口から直接その事を言われるのはやっぱりキツかった。
好きな人を酷い目に合わせてしまった。早く助けてやれなかったこと、俺はきっと一生後悔する。
拒絶されるまで俺はずっと側にいて祐飛を守りたい。
俺の事なんてどうだっていいんだ。
祐飛の俺に対する意味のない罪悪感が早く無くなるように。
だから友達のままでいい……
「これからも変わらずに側にいさせてよ」
「……うん、ありがとう」
お互いの涙を手のひらで拭う。
顔を見合って笑いかける。
友達以上、恋人未満──
今の状態でも十分に幸せじゃないか。
きっと俺らは限りなく恋人に近いと思う。
俺の事をこんなにも考えてくれている祐飛が益々愛おしくて、大切な存在なんだと改めて思った。
これからもずっと、祐飛に寄り添って生きていきたい。
「でも……さっきのキス……嬉しかった。ありがとう」
正直にそう言うと「バカ」と祐飛は恥ずかしそうに顔を逸らした。
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