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卒業生のための贈り物
今日の学校は少しだけ気が重たい──
いつものように登校途中で康介と落ち合う。康介も心なしか元気がないように思えた。
「なんかさ、いよいよなんだよな……段々実感湧いてきて、寂しいな」
同じように思ってる康介の顔を見て、僕も頷いた。
僕の通う箕曽良高校では、卒業生のための胸飾りを二年生が作ることになっている。これは毎年恒例の行事だという。
そして今日がその作業をする日になっていた。
男子校だということもあり、不器用でなかなか作業が進まない事態も考慮して午前中いっぱいはその作業時間に当てているらしい。早く終わった人は自習時間になるとわかっているので、康介は漫画本を持ってきたと嬉しそうに言いバッグの中を見せてくれた。
学校に着き康介と別れ教室に入ると、珍しく早い時間から志音も登校していた。ここのところ志音が朝のホームルームの時間帯にいることはなかったからちょっと嬉しくなる。
「竜太君おはよう」
クラスメイト達と談笑していた志音が僕に気がつき挨拶をしてくれた。
「おはよう。今日は早いんだね」
そう言うと「午前中はブートニア作る作業だからね」と笑った。
それぞれのクラスの先輩達のために一つ一つを手作りする。
僕らは一組だから、僕らが作ったブートニアは三年一組の先輩に贈られる。康介は二組だから二組の先輩へ。残念ながら周さんと修斗さんは二人とも四組だから、僕の作ったものは周さんのところへは届かないんだよね。
どうせなら周さんに作りたかったな。
始業のチャイムが鳴り、先生が大きなダンボール箱を抱えて教室に入ってくる。委員の数人がそれを手伝い、中身を全員に配り始めた。
簡単な物だからと昨日先生は言っていたけど、見たところ部品も沢山あるし何よりリボンと花のパーツがとても細かくて思っていた以上の代物でびっくりした。そういえば昔母さんがこんなようなビーズで何やらアクセサリーを作っていたっけ。
「そこ! まだ袋を開けんな! まだ説明してねえだろ!」
クラスの数人が、配られると同時に袋を開けて床に散らばしている。先生がそれを見てイライラしながら溜息を吐いた。
「それぞれ説明書入ってるからそれ見て作れ。一気に袋を開けんなよ? ごちゃごちゃと部品が混ざってわかんなくなるから……終わった奴はまだの奴を手伝うなり課題終わらせるなりして静かにしてろ」
先生はそれだけ言って出て行ってしまった。
……なんか適当だな。
先生が出て行くなり、早速真司君が僕の前に座り机にキットを広げ始めた。
「俺、こういう細かいのムリ! 竜太も一緒に手伝って」
周りのみんなも口々に面倒臭いだの既製品買えばいいだの文句を言ってる。確かに面倒だとは思うけど、気持ちを込めて作ったものを卒業生に着けてもらおうっていう考えは素敵だと思うんだけどな。
説明書を読んでみたけど意外に簡単そうでホッとする。
真司君にわかりやすく教えながら、僕は三十分もかからずに自分の分を完成させた。
「早えな! 俺のもやって!」
「ダメだよ、自分で頑張って。てか僕はもう一つやらなきゃいけないみたいだから……」
三年生の方が人数が多いということで、早く終わった僕は委員の一人に呼ばれてもう一つ作る羽目になってしまった。でも二つ目はもう慣れたのもありすぐに完成。同じく作り終えた志音とお喋りしながら真司君を少しだけ手伝った。
「どうせならこういうのは周さんに渡したいと思ったでしょ」
志音に揶揄われ恥ずかしかったけど、そんな事よりも周さんがもうすぐ卒業してしまうことが寂しいと僕は素直に打ち明けた。
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