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泣くもんか/修斗への思い

周さんに言われて俺は慌てて来た道を戻る。 第二校舎裏と言えば、この学校では揉めごとが起こる定番の場所だ。自転車置き場からも遠いし奥には何もないから滅多に人が来ない場所。そんな所に呼び出されるなんてろくなことじゃない。周さんの様子を見る限りきっと大丈夫なんだろうけど、やっぱり俺は居てもたってもいられなかった。 外へ出て、第二校舎の裏へ回る。すると建物の壁の間から修斗さんの声が聞こえた。 「これさ、こういうのダメな筈だよ。特定の人には渡せないんじゃないの?」 穏やかな声。喧嘩をしてる雰囲気じゃなくてひとまず安心する。 「大丈夫です。俺は四組だから……」 四組の奴なのか? 誰だろう……何を話してるのだろう。知った奴かどうか確認したくて、こっそりと後ろから覗き込んだ。 「いや、そういうことじゃなくてね……」 「俺はずっと谷中先輩見てきました。好きなんです。せめて……せめてこれだけでも。ちゃんと諦めますから」 好き……? あ! 修斗さん告白されてるのか。 「うーん、いやさ……ずっと俺のことを見てきたならわかるでしょ? 俺には大切に思う奴がいるからさ、だからこういう意味のある物はどう言われたって受け取れないよ」 修斗さんの優しい声。 「……でも! 俺は……それでも……」 「それでも何? 初めから諦めますから、なんて言ってる奴には心動かないよ。俺のこと好きになってくれるなら自信持って好きって言ってくれなきゃ嬉しくない」 優しいけど、ハッキリとした口調で修斗さんがそう言うと、そいつはメソメソと泣き始めてしまった。 「ごめんな。せっかく勇気出して言ってくれたのに。ありがとな」 修斗さんは泣いてる奴の肩に手を置き軽くポンと叩くと、俺の方へと歩いてくる。すれ違いざま「覗いてんなよ」とボソッと言い、スタスタと行ってしまった。 俺が見てたの気付いてたんだ。 項垂れて泣いてる奴の後ろ姿を見ても、やっばり俺の知った奴ではなく、ふと手に持っている物に気がついた。 あ、あれさっき作ったやつ。 修斗さんに卒業式に着けてもらいたくて、そして告白したんだろう。 男に告白する怖さ、俺は知ってる。 でも、あいつがどんなに勇気を振り絞って告白しようが修斗さんは譲れないから…… 俺はそのまま修斗さんを追って屋上へ向かった。 「修斗さん! 待って。ねぇ待ってってば……」 屋上へ続く階段を登りきる前に修斗さんの手首を捕まえる。 「ごめんなさい。別に覗こうと思って見てたわけじゃなくて…… 」 「わかってるよ。心配して来てくれたんだろ? ありがとね」 修斗さんを捕まえてる俺の手にそっと修斗さんの手が重なる。 「今日はあの胸飾り作る日だったんだな。あれ結構面倒くさいよな」 そう言って笑いながら「康介は不器用だから時間かかっただろう」と言って俺のことを馬鹿にした。何となく悔しくて、さっきまで作業をしてて竜に手伝ってもらったなんて言えずに、その事は黙ってた。 「でも、俺だって自分で作ったの修斗さんに渡せればいいのにって思います……」 どうせ作るなら…… 大事な人に手渡したい。 「いいよ、そんなの。でもそうだなぁ、卒業式の時にお別れのチューでもしてくれたら俺は嬉しいかな?」 へらへらっと笑って俺を見るけど、なんだか俺は笑えなかった。 「………… 」 「あれれ?……康介どうしたの?」 修斗さんがもうすぐ卒業してしまう事と、さっきの告白をちゃんと断ってくれた事と、告白をして泣いていたあいつの事とを考えていたら、寂しいやら嬉しいやら悲しいやらで、なんとも言えない気持ちになった。 「俺……もうなんか……いっぱいいっぱい」 思わず泣きそうになってしまった俺の頭を、修斗さんはよしよし……と撫でてくれる。 「そんな……子ども扱いみたいにしたって……嬉しくないから」 「はいはい、康介が泣いてたら俺まで悲しくなっちゃうから、卒業式では笑っててよね」 去年の兄貴の卒業式── 俺が泣いていたとわかった修斗さん。 (いいよ、泣いても。俺も寂しいから……俺の時もたくさん泣いてね ) なんて言ってたっけ。 絶対に泣くもんか…… 笑って見送ってやるんだから。 学校で会えなくなるだけで、そうだよ……お別れなんかじゃない。 何も変わらないんだからさ。 「心配しないでください。俺泣きませんからね」 くしゃっと笑う修斗さんに、俺も笑顔でそう答えた。

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