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お別れ会
卒業前のこの時期の三年生は自由登校になるので殆どいない。周さんみたいに補習授業を受ける生徒や自主的に登校してくる生徒だけだ。
そして今日は三年生の登校日。卒業式の予行練習がある……
在校生も含む予行練習の後には、卒業生を送る会が行われる。
この日のために生徒会の役員が準備をしてきて、僕も美術部総出で看板を制作した。そしてその看板に書道部の人が題字を書いてくれて、昨日完成したばかり。
体育館の入り口にその完成したばかりの看板を立て掛ける。去年も送る会の看板制作に参加したけど、やっぱりその時とは比べ物にならないくらいの喪失感と寂しさがこみ上げてくるのが辛かった。
「竜太君? 大丈夫?……朝から元気なくない?」
志音が心配して僕に話しかけてくれる。
「まぁ、しょうがないよね。寂しいよね。俺も寂しいもん。いいんじゃない? 無理しなくても」
「うん……ありがとう」
志音が優しい言葉をかけてくれ、友達の有り難みを実感する。それでも僕がこんな顔をしていたって周りに気を遣わせてしまうだけだから、笑顔でいようと心に決めた。
卒業式の予行練習はスムーズに終わり一旦三年生は教室へ戻る。ぞろぞろと体育館から出てくる上級生の中に周さんを見つけた。誰よりも背が高くて目立つからすぐにわかる。周さんも僕の姿を見つけてくれて、小さく手を振ってくれた。
会場の準備を終え、今度は送る会がスタートする。三年生が音楽に合わせて入場してくる。今度は先程とは違い、砕けた雰囲気で賑やかだ。順番に入ってくる三年生の中に、笑い合って並んで歩く周さんと修斗さんの姿も見えた。
かなり前から準備をしていたけれど、これと言って趣向を凝らした会……というわけでもなく、普通に次期生徒会長からの挨拶から始まり、続いて思い出のスライドショーが始まるという流れ。
卒業生が入学したばかりの頃から今に至るまでの写真が映る。
僕は一年生の時の周さんを見たくて必死にスクリーンを見つめ、その姿を探した。
「あ! ねえあれ! 見て見て、橘先輩だよね? 超怖え!」
隣に座る真司君が僕の肩を揺すりながらスクリーンを指差した。
「………… 」
やっぱり周さんは目立つから、目を凝らして探さなくても写っていればすぐにわかる。今よりも派手な髪の毛で、チラッと写り込んでいた周さんは目つきも悪く、真司君の言う通り怖い顔をしていた。
「一年の時は今よりもっと怖そうなんだな。目付きも悪い!」
感心しながら真司君が言うからムッとしてしまった。
「怖くなんかないから! もう真司君うるさいから黙ってて」
確かに怖そうだけど、ちょっと幼くも見えるのが新鮮で、僕の知らない周さんが垣間見れて嬉しかった。
スライドショーを見ている三年生も凄く盛り上がっている様子でとても騒がしい。
そしてスライドが流れてる中、文化祭のライブの様子が映し出された。
この時の周さんはもう僕がよく知っている周さん。大好きなその姿を改めてジッと見つめる。文化祭の校内の様子、女装した僕もそこに写っていた。
三年生の方から冷やかしの声も上がった。みんなが周さんの方を見ている気がして気になったけど、僕の位置からは雛れているから何を言っているのかはわからずそわそわする。そんなこんなでスライドショーはあっという間に終わってしまった。
今度は三年生の担任一人一人から挨拶があり、そして何故だか保健医の高坂先生まで壇上に上がって話し始めた。
「あ……毎年先生からのご挨拶のこの場で、僕がこの壇上に立つことはないんですが、今年の卒業生は特に問題児も多くてね。トラブル、アクシデントばかりで僕も何かと関わることが多かったので。校長先生が是非にと仰って下さったので少しだけいいかな?……お話しさせてください」
にこにこと、学校でのいつもの顔で柔らかく話し出す高坂先生。
男子校という狭い世界で過ごした三年間、それでも色々なことを経験して感じて、そして巣立っていく。ここでの経験や出会いは絶対にこれからの君たちにとって大切なものとして残るから……社会に出る者、大学等に進む者、それぞれだと思うけど自信を持って一歩一歩進んで欲しい。そして様々な事に偏見を持たずに色んな方向から見られるような優しい人間になって欲しい……
そういったことを手短かに、そして和かに話すと、先生は一礼をしてステージを降りた。
最後に卒業生代表からお礼の言葉があり、その場で会はお開きとなる。でもお世話になった先生や先輩後輩と立ち話を始める生徒が多いので、片付けは暫く後になってしまった。
僕も周さんの所に行きたかったけど、見てみると修斗さんと一緒に下級生に囲まれているのがわかったから、諦めて教室に戻った。
別に今、周さんと話せなくても帰ってから会えばいい。僕はいつでも周さんを独占できるんだから……
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