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周の寂しい気持ち
いよいよ卒業式も間近に控え、今日は予行練習。
クラスの奴らはもう殆ど学校には来ていなかったけど、今日のこの日は全員登校だった。俺は補習授業がたんまりあったから毎日学校にきてたけどな……
「よっ、橘! 学校は久々だな。元気にしてたか?」
俺が自由登校のこの期間にも毎日学校に来ていたのを知ってる奴らが、わざわざ俺に声をかけていく。
どいつもこいつもわかっててわざと言ってるんだ。ムカつく。今まで俺なんかとまともに喋ったこともねえくせに。
修斗は俺に合わせてなのか、来る必要もないと思うのにちょくちょく学校に来ては自習をしたり保健室に遊びに行ったりしていた。
「予行練習の後は追い出し会だって。今年もあれかな? スライドショーと先生からのお言葉?……なんかもっと気の利いたことやればいいのにね。結局毎年同じだよね」
体育館に向かって歩きながら、俺の後ろでべらべらと喋る修斗。
そういやこいつとも結局三年間同じクラスだったな。出席番号が俺の次だから、いっつも俺の後ろでこうやってお喋りしてたっけ。
「それでもあのスライドショー、楽しみだよな。懐かしいじゃん? どんな写真があるのかなぁ」
「………… 」
修斗も卒業したら就職だ。春休み早々には研修が始まるって言ってたっけ。こうやって他愛ない話して笑っていられるのももう今だけなんだな。
三年間当たり前だった光景がもうすぐ終わろうとしてるなんて、今更だけど実感が湧いてきて、ちょっとだけ寂しくなった。
体育館に着くと、卒業式本番と同じ流れで入場から行う。
さっきまでべらべらとうるさかった修斗もやっと静かになった。
一通りの流れをこなし、卒業式の予行練習が終わった。退場の曲とともに俺ら卒業生はまた並んで退場する。廊下に出たところでふと視線を感じ目線を上げると、竜太がこちらを見ているのに気がついた。
……なんて顔してんだよ。
不安と寂しさが入り混じった表情で俺の顔を見ている。
あれで笑ってるつもりかよ。
ぎこちない竜太の笑顔を見て俺まで寂しくなってしまった。慌ててナーバスな気持ちを振り払い、竜太に笑顔を浮かべて手を振った。
参ったな……
今まで卒業したって何も変わらないし、ただ学校に残る竜太のことが心配なだけだった。それなのに、あんな顔見せられたら俺までなんだか切なくなっちまう。
「あれれ? 周君どうしたの? 元気ないなぁ、寂しくなっちゃったかな? 卒業式は周君も泣いちゃうのかなぁ?」
教室に戻ると修斗が俺の腕に絡みついてきて、嬉しそうに顔を覗き込んでくる。
「別に泣かねえよ……竜太が辛そうな顔してたからさ、ちょっと心配だっただけだ。いちいちそうやって揶揄うな」
ケラケラと楽しそうに笑う修斗は今度は塚田の方へ揶揄いに行った。
「………… 」
てめぇだって寂しいくせに。
暫く教室で待たされてから、今度は送る会の準備が出来たと二年の生徒会役員が知らせに回ってくる。俺らはぞろぞろとまた廊下に出て、体育館に向かった。
入り口に立ててある看板に目が止まる。
涼し気で、それでいて大胆に描かれた青空と太陽の絵。これは竜太が描いたんだとすぐにわかった。
「おぉ! 綺麗だねぇ」
修斗も看板に目をやると、目元に手をやり「太陽が眩しいっ」とふざけて笑った。
「やっぱりスライドショーだ……ウケる! 周いたっ! 見てあれ、周目つき悪すぎ! 何狙ってんの? でも一年の時の周は可愛いねぇ。俺も若い! 俺カッコいい!」
「………… 」
隣できゃっきゃと煩い修斗に適当にウンウンと頷く。
画面が進むにつれ最近の写真に変わっていった。
「あ! 見てよ! 竜太君だよ、可愛いー! あの格好でちょろちょろしてたから、あちこち写り込んでるよ」
去年の文化祭の時の写真……
俺らのクラスのお化け屋敷の入り口にいる竜太や志音。
俺と竜太の関係はもう殆どの奴が知っている。竜太が映るたびにチラチラと顔を見られ、揶揄われて不愉快だった。
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