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愛しい人

スライドショーも終わり、壇上に上がった各クラスの担任からの話を聞く。 ここまでの流れは去年のそれと全く同じだった。 「先生達も隠し芸とかやればいいのにね。ちょっと楽しいのはスライドショーだけだよ」 修斗がブツブツ言っていると、高坂まで壇上に上がってきて驚いた。 「センセーも話するの? へぇ、これはびっくり」 高坂はいつもの作り物の笑顔で俺たちをざっと見渡すと、柔らかく話し始めた。 学校から旅立つ俺たちに向けての激励の言葉。ありきたりな挨拶だけど、やっぱり高坂には入学当初からずっと世話になって面倒をかけているからか、その言葉にグッとくるものがあった。 送る会もお開きになり、俺はさっさと帰りたかったのにすぐに下級生に囲まれてしまった。おまけにその中には竜太はいないし…… 修斗はちゃっかり康介を見つけて先に帰るし最悪だ。 ファンだという奴らにやたらと握手だハグだと求められ、やっと解放されて俺は教室へ戻った。 予行練習の時に見た寂し気な竜太の表情が気になり、電話をかけようと携帯を取り出すと、竜太からメッセージが入っていることに気がついた。 ……急いで帰らなきゃな。 アパートの手前に昔からある小さな公園。その公園に近付くと人がいることに気がついた。 「竜太?」 よく見ると、竜太が公園のブランコにちょこんと乗ってユラユラしていた。 「竜太……何してんの? 部屋で待ってりゃいいのに」 付き合い始めの頃にも竜太がここで待っていたことがあったっけ。お袋を俺の彼女と勘違いした竜太が俺の事を避けて……あの時は訳がわからなくて、俺、竜太の前で泣いた気がする…… もうその頃から俺は竜太に夢中だったんだな。 「周さん? なに笑ってるんですか?」 思わず思い出し笑いをしてしまい、竜太に怪訝な顔をされる。 「あ、ごめんな。前の事思い出してた」 竜太も首をかしげながら俺に微笑んでくれた。 「てっきり、待ってる……なんて言うから部屋で待ってんのかと思ったのに。どうした? なんで外で待ってたんだ?」 「早く周さんの姿が見たかったから……」 竜太の隣のブランコに腰掛けると、竜太は立ち上がり俺の前に立った。 「僕ね、周さん卒業しても大丈夫かと思ってたんです。でも……やっぱり……段々卒業式が近づいてくると寂しくて……嫌です。でも、僕は大丈夫だからって、周さんに心配かけちゃだめだから……笑顔で見送るんだって決めたんだけど……寂しいってどうしても思っちゃって…… 」 俺は俯いて目に涙を溜めて話す竜太の手を取った。 「僕、男なのに……泣いてばっかでごめんなさい」 俺の前で素直に感情をさらけ出す竜太が愛おしくてしょうがない。 「いいよ、ありがとうな、竜太。とりあえず部屋、帰ろっか」 両手を握ったまま竜太を見つめる。 ……目が赤くなってら。 「その前に、竜太ぎゅーして?」 ブランコに腰掛けてる俺の方が竜太を少し見上げる形で微笑むと、ちょっと戸惑った感じで竜太がパチパチと瞬きをした。 「……はい」 少しだけキョロキョロしてから、竜太は俺を抱きしめてくれた。 「俺だって寂しいんだからな」 竜太の胸の中で小さく呟く。 竜太はそんな俺の頭を、よしよしと宥めるように優しく撫でた。

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