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交換

保健室に入ると修斗さん達と高坂先生が談笑していた。志音も奥のベッドに腰掛けてる。 「お、橘も来たか。ちゃんと卒業できてよかったな。おめでとう」 そう言って、和かに先生が周さんのところまで歩いてくると、満足そうに肩を叩いた。 「一応な……世話になったから、挨拶しに来た」 ぶっきらぼうに言う周さんに先生も修斗さんもクスッと笑う。 「一応じゃねえだろ? 入学した時から僕はずーっと君らの監視役任されて大変だったんだから。毎年新しいクラスになると担任の先生が保健室に来るんだよ……よろしくお願いしますって。何で僕がよろしくお願いされなきゃいけないんだよねぇ」 楽しそうに思い出を話す高坂先生。大変だったと言う割に嬉しそうな表情の先生に僕もつられて笑顔になった。 「でも寂しくなるな。もうお前らみたいな問題児はいないから楽にはなると思うけどね。そうだな、強いて言えば来年度の問題児は……志音かな」 ベッドに座ってる志音をチラッと見る先生。 「何で俺?」 「志音だって入学早々に校長からよろしく言われてるんだよ。お仕事と学校の両立をちゃんと出来るように見守ってやれってね。まあ、言われなくてもそうするけどな」 問題児……とか言うと聞こえが悪いけど、高坂先生は頼まれなくても面倒見がいいのはわかっている。憎まれ口を叩きながら面倒臭そうに言うけど、愛情があってのことだから。 「竜太のこと、よろしくな」 周さんが先生にボソッと言う。そんな周さんを見て先生は笑った。 「竜太くんならそんな心配しなくても大丈夫だよ……でもそうだね、悪い虫がつかないように見ててあげるよ。そこの康介くんもね」 康介は一度泣き始めたら止まらなくなってしまったのか、さっきからメソメソと涙を拭っては修斗さんによしよしと慰められていた。 「今までお世話になりました。高坂先生」 周さんが改まって深々と頭を下げる。 突然のことで先生も驚いた顔をしている。僕もちょっとびっくりしちゃった。修斗さんも慌てて周さんに並んで、一緒になって頭を下げた。 「センセーありがとうございました!」 「やめろって、気持ち悪いから。ま、頑張れよ」 「またね、センセー。遊びに来るから……」 「……いいよもう来なくて」 軽口を叩きながら先生にお別れをして、今度こそ学校をあとにした。 「あれ? いつの間に交換したの?」 カラオケ店に向かう道中、修斗さんがネクタイをしていない周さんの姿を見て僕に聞いた。 さっき周さんがしていたネクタイを僕が貰い、僕のネクタイを周さんにあげたんだ。周さんは窮屈だからと言って、僕があげたネクタイはポケットにしまってた。 「よく気がつきましたね」 「そりゃわかるよ。竜太君のネクタイ、綺麗になってんだもん。周あんまりこういうの興味なさそうだったけど違ったんだね」 今日は卒業式だからときちんとネクタイを締めていたけど、周さんは普段はネクタイをしていなかった。だから僕が貰ったネクタイはまだ真新しく綺麗な状態。逆に周さんに手渡した僕のネクタイはくたびれてちょっと色褪せている。 周さんが誰にも渡さずに僕のために残してくれた綺麗なネクタイ。普段していなかった周さんのネクタイだけど、でも僕は嬉しかった。

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