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水入らずで
康介が周さんと修斗さんに歌のプレゼントの話をすると、二人はとっても喜んでくれた。
「あの……アカペラだけど、心を込めて歌いますね」
康介と一緒に、あの曲を歌いだす。
周さんも修斗さんも、嬉しそうににこにこしながら黙って聴いてくれていた。
でも途中で康介がまた泣き始めてしまったから結局僕が一人で歌う羽目になり、そしたら周さんも修斗さんも一緒になって歌ってくれて、なんとか最後まで歌いきる事ができた。
「もしかしてさ、二人で練習してくれたの?」
歌い終え、修斗さんに聞かれたので僕は頷く。
「にしたって、なんなの康介、泣きすぎだよ。練習したんでしょ? なのに半分以上歌えてなかったじゃん。まったく本当泣き虫なんだから」
修斗さんが康介の頭を抱いて、よしよしと撫でる。
「この場で涙するのは俺や周じゃねえの? 康介がガン泣きしてるから泣けないじゃん」
「だって俺、学校行くの……修斗さんに会えるのが楽しみで……それだけのために……グスッ、修斗さんのために学校……学校行ってたんだもん」
「………… 」
泣きながらそう言うけど……
「は? 勉強するために学校行きなさいな!……だから康介はバカなんだよ」
修斗さんは大笑いして康介を抱きしめた。
三時間ほどカラオケを楽しんで、僕らはお祝い会をお開きにする。
この後は康介は修斗さんと、僕は周さんとそれぞれ過ごすということで、ここでお別れ。
「竜太君、次は卒業旅行でねー!」
元気に手を振って修斗さんは康介と行ってしまった。さっき康介から聞いたけど、二人で買い物をしてから食事をするんだって。
……いいなぁ。
「じゃ、僕らも行きましょうか」
僕は周さんに声をかけ、歩き出す。
僕はというと、このまま真っ直ぐ家に帰るだけ……
今日は周さんが卒業するという事で、雅さんと謙誠さんが来ていた。夕飯は卒業のお祝いで家族水入らずで食事をするんだって。周さん達はもう別々に暮らしているから、こんな機会はあまりないと思う。周さんは僕も来ていいと言ってくれたけど、遠慮した。僕がいたら、最近家族になったばかりの謙誠さんと素直に話ができないんじゃないかな……って思ったから。
「なぁ、本当に竜太帰っちゃうの? 一緒に飯行こうぜ。なぁ……お袋だっていいって言ってんぞ? 来いよ」
周さんは僕を家まで送りながら、さっきから同じ事を繰り返し言っている。
雅さんもいいって言ってくれてたって、やっぱり僕が邪魔しちゃダメだと思うから。
「いいんです。僕はいつでも周さんと会えるでしょう? 今日は親子三人、水入らずで食事してきてください。謙誠さんもその方が喜びますよ」
僕だって周さんとずっと一緒に過ごしたいのは山々だけど、こればっかりはね。
周さんは僕を家まで送ると、名残惜しそうに帰っていった。
さて……
僕は特にすることもないし、旅行の支度でもしようかな。
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