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卒業旅行/出発
新幹線の車内。席を向かい合わせにして四人で座る。
目の前にはいつもと変わらない康介と修斗さん。網棚の上に康介が修斗さんの荷物を上げてやり、窓際に座る修斗さんはそんな康介のお腹をこちょこちょしてイタズラしている。僕も周さんが窓際の席を譲ってくれ、荷物も上に上げてくれた。
「こないだも思ったけど、竜はほんと荷物が多いよね。そもそも鞄がでっかいんだよ。今回は何持ってきたの? まさかまたツイスターゲームなんて入ってねえよな?」
康介が僕の荷物を眺めながら聞いてきた。
「持ってきてないよ。あのね……僕、圭さんの真似してみんなのお弁当作ってみたんだ。簡単なのだけど。後で食べましょ」
僕は圭さんがそうしていたように、途中で捨てられるように使い捨ての紙製のボックスにお握りと唐揚げ、周さんの好きな卵焼き……これは周さんが沢山食べるかもしれないからちょっと多めに。あとウインナーとポテトサラダを作ってきた。
修斗さんはわからないけど、康介は凄く食べるのを知ってるから、お握りも具材を変えて多めに握った。
「まじか! 竜太、卵焼きは? 卵焼きある?」
早速周さんが卵焼きの心配をしている。
「……ふふ、勿論ありますよ。周さんの好きなおかずだから多めに作ってあります」
そう聞くと満足そうに周さんは頷き、僕の方に寄りかかってくる。
「俺、竜太がいれば生きていける……」
僕の肩に頭を乗せ、甘えたようにそう言うけど……
「それ、どういう意味ですか? そんなに卵焼きがいいの? 僕は家政婦じゃないですよ?」
僕らの会話を聞いていた修斗さんが吹き出した。
「竜太君、周が言いたいのは竜太君をお嫁さんに欲しいってことじゃないの?」
揶揄うように笑って僕にそう言った。
「は? お嫁さんって! 僕は男ですけど」
……わかってる。
ちょっと恥ずかしかっただけ。
僕だってできる事なら周さんと結婚したい。でも男同士で結婚なんて馬鹿げてると思われたくないから、言わない……
「こないだね、周が竜太君は掃除も洗濯も料理も完璧だって言ってたよ。あと俺が周の服借りちゃって竜太君やきもち妬いちゃったって……ごめんね」
……? それってもしかしてこの間のこと?
「もうっ! 周さん! 何言ってるんですか? ……そういうことぺらぺら言わないでください」
褒めてくれるのは嬉しいけど、何でも修斗さんに喋っちゃうのは恥ずかしい。僕は目の前でにやにやしている修斗さんの顔が見られず、窓の外へ視線を向けた。
「……大丈夫ですか?」
新幹線が出発して、しばらく経つ。
周さんはイヤホンで何やら音楽を聴き始め、静かにしている。修斗さんはというと、康介が修斗さんの肩に……というか、もう胸のあたりまでずり落ちるような感じで頭を乗せて爆睡していた。修斗さん、変な格好で康介に寄りかかられているから少ししんどそうに見えてそう聞いた。
「はは……俺は大丈夫。てかこんな体勢で寝てる康介の方が絶対体しんどいよね?」
康介を起こさないように小声で修斗さんはクスクスと笑った。
「でもそろそろお腹すいたし、竜太君のお弁当食べたい。康介起こすか」
そう言うと、傍に置いていた自分のリュックの中からそぉっとティッシュを取り出した。
「シィ……」と指を口元にあてる修斗さん。
……?
何をするのかと見ていたら、細くこよりにしたティッシュを康介の鼻の中に突っ込むもんだから、康介は盛大にクシャミをブチまけた。周さんはイヤホンをしていたものの康介のクシャミに驚いてビクッと飛び上がる。修斗さんはそれを見て大笑い。
……普通に起こしてあげればいいのに。
康介は寝ぼけて何が起きたのか理解してないし、周さんは康介の事を怒って蹴っ飛ばしてるし、修斗さんは笑ってるし……
「ちょっと! うるさいですよ! 周りの迷惑になるから……ほらもう周さんも康介のこと蹴らないで」
僕は大騒ぎしているみんなを静かにさせてから、周さんに網棚から鞄を取ってもらいお弁当を出した。弁当を広げた途端、みんなが静かになったので可笑しくて笑ってしまった。
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