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卒業旅行/探検開始
入口から入っていきなり目の前に水……しかもここから見る限り、ずっと先まで灯りが見えない。
「ねえ、本当に行くんですか?」
「へ? まだ入口だよ? 入ってもいないのに」
修斗さんが振り返り笑う。
「………… 」
「大丈夫だよ、少し進めば灯りもあるし、ここはほら、外の光が入るからまだ灯りが無いんだよ」
僕が言いたいことがわかった康介が優しくそう言ってくれ、僕は背中を押されてやっと前へ進んだ。
バシャバシャと水の中を進んでいく。入口から遠ざかれば当たり前だけど周りが暗くなっていく。
「あ……周さん。周さん、周さん!」
僕は先頭を行く修斗さんのすぐ後ろを進んでいたけど、既に足がすくみ始め背後にいる周さんを振り返った。
康介と一緒に並んで歩いていた周さんがすぐにこちらまで来てくれたから「暗いのが怖い」と僕は正直に打ち明けた。
「そうだった。竜太暗いの苦手だよな。でももうじき明るい場所に出るみたいだから頑張れ」
レインコートのポケットから地図を取り出し、ヘッドライトで照らす。周さんは足が遅い僕に付き合い、一緒に歩いてくれた。
足元が悪いくらいで、然程困難なく最初のポイントに到着した。少し開けたその場所は、所々天井からの光が差し込み鐘乳石が照らされて、とても綺麗な光景だった。
でももうここで引き返して帰りたい。
ちゃっかりとビニール袋に入れた携帯を持ち込んでいた修斗さんがみんなの写真を撮ってくれる。
「すげー綺麗だし、涼しくて気持ちいいね」
修斗さんはそう言うけど、涼しいを通り越して、僕は寒くてしょうがなかった。
「じゃ、そろそろ行くよー! 出発!」
相変わらず元気な修斗さんがまた先頭を切ってずんずんと進んだ。
今度の道は、狭くて更に暗かった。
頭を屈めないと入れないトンネル状の道……
僕らはそれほどでもないけど、背の高い周さんはちょっと大変そう。何度も頭をぶつけては文句を言って怒ってる。
「くそっ! ムカつく。ヘルメットなかったら今頃流血だぞ」
周さんの声が穴に響いてちょっと怖い。それなのにこの先は更に天井が低くなっていて、前を行く修斗さんも康介も四つん這いに近い体勢で進んでいた。おまけに暗い……恐怖心が一気に湧き上がる。
「……嘘でしょ」
怖気付いて立ち止まる僕に気がつき周さんが声をかけてくれた。
「どした? 大丈夫、見てみろ。アホな康介も進んでんだ。竜太なら大丈夫!」
よくわからない励ましをもらい、僕は意を決して前屈みに進む。
「周さん、僕のそばにいてくださいね……ひぁっ? 何?」
突然お尻を撫で回されてビックリして声が出る。
「あ、悪い。目の前に可愛いお尻があったからつい……」
「もう! やめてください! 周さんのエッチ!」
少し進んでは周さんにお尻を撫でられ、その度に僕は周さんの手を払い、そうこうしているうちにまた開けた場所に出ていた。
「あ! やっと来た。竜太君大丈夫?」
修斗さんと康介がこちらを見て手を振っている。
周さんがエッチだったお陰で、何だか気が紛れてあまり怖くなかった。
「周さん、ありがとうございました」
思わずお礼を言ったら周さんはキョトンとしてるから、僕は笑ってお返しに周さんのお尻を撫でた。
「あともう一ヶ所ある探検ポイントが折り返し地点みたいだから頑張ろ。そんで戻って温泉入って晩飯だな」
修斗さんの言葉に康介が「腹減った」とお腹をさすってる。
折り返し地点って、また来た道を戻るんだ……
僕も早く温かい温泉に浸かりたい。
足元から水が入り長靴の中もグシャグシャしてるし、最初に言っていた通り、履き替えた短パンももうびっしょりだった。
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