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卒業旅行/失踪
周さんと二人でのんびりとウインドウショッピングを楽しみながら、さっき来た道を戻る。康介達と落ち合う時間までまだ少しあったので、僕は先程のバウムクーヘンのあった和菓子屋へまた入った。
夕飯の後にみんなで食べようと思って何かデザートでも……と思ったんだ。周さんと康介はともかく、修斗さんは絶対に喜んでくれるはず。
ショーケースを覗いていると店主が話しかけてくれ、僕はお勧めを聞いた。
「兄ちゃんさっきここでバウムクーヘン食べてってくれたろ。美味しかったかい?」
「はい! 僕甘いもの好きなんですけど、こちらのバウムクーヘンもしっとりしてて甘さスッキリでとても美味しかったです。あと卵の味が濃厚で僕の好きな味でした」
店主のおじさんは僕の言葉に嬉しそうに笑い、小さくカットされた試食用のカステラを出してくれた。カステラも凄く美味しくてびっくり。思わずその場でおじさんと話が弾んでしまった。
僕が話し込んでいると、周さんは「トイレ……」と言って僕に自分のバッグを預けて店を出ていく。
「連れの兄ちゃんはモデルさんか何かかい? あんなに大っきい子初めて見たよ」
店主のおじさんが周さんのことを何度も何度もカッコいいと褒めてくれたから、僕まで何だか嬉しくなってしまって、お勧めしてもらった栗入りどら焼きを思わず余計に買ってしまった。
「へへ……ちょっと買いすぎちゃったかも」
僕は店から出ると、周さんを待った。
おやつに食べようと購入したのは栗入りのどら焼きとお団子。周さんはちょっと甘いからきっと食べないかな。康介は栗が好きだからどら焼きをあげよう。僕と修斗さんはどら焼きとお団子……今から食べるのが楽しみだ。
「………… 」
あれ?
そういえば周さん、遅いな。
店を出てからどのくらい経っただろう。五分くらいかな? 僕はこの店の前で待ってたけど、もしかしたら康介達との待ち合わせの店へ行ったのかもしれない。僕ったらのんびりしちゃった。
周さんがあまりにも遅いので、先に行ったのかと思い僕は慌てて約束の店へ向かった。
来た時よりも人が増え、商店街はちょっと混雑して賑やかだ。待ち合わせの店は道を挟んだすぐ隣だけど、待たせちゃいけないと思い僕は急いだ。
「あ、ごめんなさいっ。お待たせしました!」
待ち合わせの場所へ戻るともう既に康介と修斗さんが待っていた。
でもその近くに周さんの姿はない。
「どうしたの? 竜太君一人? 周は?」
修斗さんが息を切らしている僕の手から荷物を取り、持ってくれた。
「あれ?……周さん、来てませんか?」
僕は息を整え周りを見渡す。
「来てねえよ?……てか竜、何これ? いっぱい買ったな」
康介が修斗さんの持っている僕の袋を覗き込む。
「あ! 美味しそう。竜太君これあそこの店の団子でしょ。俺後で行こうと思ってたんだ」
修斗さんもゴソゴソと中を覗いて嬉しそうに団子を見ている。
「夕飯の後にみんなで食べようと思って……」
僕は適当に返事をしながら周さんを探した。周さんなら人混みだってすぐに見つけられる。それなのに近くにはいないようで、なかなか見つけることができなかった。
「周なにやってんだ? 遅えな……」
「僕てっきり先にこっちに来てるかと思って。急いで来たんだけど……」
「周さん便所? うんこかな?」
「………… 」
段々心細くなってくる。
どうしたんだろう。
さっきあんなことしちゃったから、体調崩したのかな。僕は路地裏でのことを思い出し、思わず顔が火照ってしまった。
「竜太君? 顔赤いよ? 大丈夫?……ねぇ、周に電話してみたら?」
修斗さんに言われてハッと気づいた僕は周さんに電話をかけた。
プルプルと呼び出し音が鳴ると、すぐ僕の背後から周さんの携帯が鳴った。
「……あ、周さんのバッグ」
僕は周さんから預かったままのバッグを背負ってるのを思い出し、そこから周さんの携帯を取り出す。
「マジか。周、携帯持ってってねえの? 連絡つかねえじゃん。しょうがねえな、もう少し待ってみるか」
修斗さんがイラっとしながらそう言うと、向かいのガードレールに腰を下ろした。
「どうしたんだろう……周さん」
康介達と落ち合ってからもう二十分は経っている。僕にバッグを預けたってことは手ぶらだし、何も持ってないよね? お財布だってここにあるんだ。
「竜太君置いてどこか行っちゃうなんてことないだろうし……あ! 康介、どうだった?」
康介は近くにあるトイレやお店を片っ端から探してくれたみたいで、息を切らせて戻って来た。
「うーん、どこにもいねえ。竜、周さん本当に便所? 先ホテル帰ったとかねえ?」
「うん、それはないと思う」
なんでいないの?
どこに行っちゃったの?
……どうしよう。
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