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卒業旅行/真相

「周デカイから目立つはずなんだよな。そこら辺にいれば、ここから見てすぐわかるんだけど……」 修斗さんがガードレールの上に立ち上がり、バランスを取りながら遠くを見つめる。その横で康介が危ない……と言いながら、修斗さんの腰を支える仕草をして蹴っ飛ばされた。 「おお? 兄ちゃんどうした?」 さっきの和菓子屋の店主が、休憩なのかこちらに歩いて来ながら僕に気がつき声をかけてきた。 「あ ……連れとはぐれてしまって」 僕がそう言うと、おじさんは「この辺りには「神隠し」の云い伝えがあるんだよ」と冗談っぽく言い笑った。 僕と康介が半分本気にしてオロオロしていると、おじさんと修斗さんに笑われてしまった。 「あんなにデッカい兄ちゃん隠せねえって。いい大人なんだしその辺にいんだろ。早く会えるといいな」 豪快に笑いながらおじさんは行ってしまった。 「神隠しされるとしたら子どもだろ? あんな太々しい奴、誰も欲しくねえし隠せねえよ」 修斗さんは相変わらず不安がっている康介にそう言うと、僕の方を見てとりあえずホテルに戻ろうと提案する。修斗さんの言う通りここで待ち続けていても埒があかないので、僕らは一旦ホテルに戻ることにした。 部屋に戻ってもどうにも落ち着かない。修斗さんは一応オーナーに伝えておいた方がいいかもと言ってフロントに行ってしまった。 時間が経てば経つほど心配になる。 何か事故や事件に巻き込まれてしまったんじゃないか……すぐ側にいた僕なら何か気がつけたんじゃないか? と、実態の見えない後悔が膨らんでいく。 ベッドに腰掛け項垂れる僕に気を遣い、康介が肩を抱いてくれた。黙り込む僕にずっと「心配ないから、大丈夫だから」と囁いてくれていた。でも、大丈夫だからと言われれば言われるほど、確信の持てない慰めの言葉に苛々し、不安が募る。どうしたらいいのかわからない僕は、我慢の限界だった。 気づけば涙が溢れてしまっていた。 「竜太君? そんな心配しないで……夜になっても連絡取れないようなら警察にも話をしてみようってオーナーが。親父さんには連絡付かなかったみたいだから様子見てまた電話するとは言ってたけどさ。周の事だから心配ないよ」 部屋に戻ってきた修斗さんも僕を慰めてくれた。 「僕、周さんと一緒にいたのに…… 僕がいたのに」 「いや、竜太君のせいじゃないから。いちいちトイレまで一緒にくっついて行かねえだろ……あ? 電話だ」 話していたら修斗さんの携帯が鳴った。 「雅さんだ……なんだろ。珍しい」 「………… 」 修斗さんは電話に出ると部屋をうろうろしながら何やら話し込んでいた。時折周さんの名前が出るから、どうやら周さんのことを話しているらしい。僕は気が気でなく、修斗さんの後ろをうろうろと付いて回った。 「……じゃ、ありがとうございます。へへ……うん、わかった。うん……そうそう、竜太君心配しすぎて泣いちゃってるし。はい。大丈夫です。はぁい、失礼します」 修斗さんは電話を切ると振り返り、くしゃくしゃに僕の頭を撫で回した。 「ちょっと待ってな。オーナーに話してくるから。あ、周なら大丈夫! 後で説明するわ」 それだけ言うとバタバタと出ていってしまった。 「康介! 周さん大丈夫なの? 大丈夫だって修斗さん言ったよね? 大丈夫なんだよね?」 詳しくはわからなかったけど、残された康介に問い詰め「俺だってわかんねえよ!」と逆に怒られてしまい、大人しく修斗さんの帰りを部屋で待った。 なかなか戻らない修斗さんにしびれを切らし、苛々と康介に当たっているとやっと修斗さんが戻ってきた。 「ごめんね、遅くなった……」 「修斗さんっ! 周さんは? 周さんは何処なんです? 何処にいるの?」 早く事情を知りたくて、僕は戻ってきた修斗さんに矢継ぎ早に聞いてしまい「まぁまぁ、落ち着け」と、修斗さんに窘められる。 「なんかな、簡単に言うと、知らない婆さんに捕まったらしくて戻れないんだと……」 ……婆さん? 「周の事を自分のかつての恋人だと思い込んでて離してもらえなくて、とりあえず家まで送り届けたはいいんだけど……今度は恋人から息子に変わったらしくて、息子の帰宅に泣いて喜んじゃって……周もなんだか邪険にもできなくてその婆さんに付き合ってるうちに帰るタイミング逃したらしい。すぐに婆さんの家族が来て帰ることもできたんだけど、また恋人だと縋ってくる婆さんに泣かれちゃって、なんか可哀想になったらしくて、それで一晩付き合ってから帰るってさ」 一晩付き合うって…… 「竜太君? なんて顔してんの。大丈夫だよ? 相手は婆さんだよ? 婆さんの家族の人たちも一緒にいるみたいだし。まぁ、周も変なところ人がいいよな。普通知らない人の家になんか泊まらないだろ……」 かつての恋人だとか、息子って…… 「そのお婆さんって」 「そう……ちょっと呆けちゃってるみたいだね。でも家族の人に感謝されてたよ。幸せそうに穏やかにしてるの久し振りだって。そう、周のやつ手ぶらだったから電話借りてとりあえず番号記憶していた雅さんに連絡したみたい」 まだ複雑な気持ちだけど、とりあえず周さんが無事ならよかった。 「じゃあ、周さんちゃんと帰ってくるんですよね?」 「一晩っつっても頃合い見て帰るって言ってたらしいから……遅くても明日の朝には戻ってくるよ」 修斗さんの言葉に安心するけど、でもやっぱり寂しくて泣きたくなった、

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